第6話 回転木馬ノ永イ夢想(前編)
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―1―
歌う小鳥。二足歩行するキジトラ猫。優雅な尾鰭を誇らしげになびかせ泳ぐ金魚。それらの装飾が施されたレンズを、女は次々とハンドバッグから取り出す。
打ち上げられては花開き、また打ち上げられる花火。鐘楼と飛行船。輪を描いて飛ぶ大きな鳥。目の中で動く模様たち。すべて彼女のお気に入りだ。
祝祭の夜が死と炎の夜に変わる瞬間、彼女は高層オープンカフェの化粧室にいた。ミサイルが来たのは、レンズケースの中から二足歩行のキジトラ猫を選び、目にはめていた、回る大輪のダリアのレンズを外した直後だった。
〈表題:電磁体を利用した他者への記憶および人格の転写について〉
〈啓明3年5月23日〉
〈日本国陸上自衛軍第三方面国防技術研究所
可視電磁情報研究室所属:向坂五英〉
〈はじめに:人間の人格を電磁体に転写できるのならば、電磁体の人格を人間に転写することは可能か。
上記について、死亡した桑島盟美の記憶ならび人格が転写された電磁体と、新生児であるその姪・須藤初芹を用いて試験する。〉
暗闇の化粧室で、女がはいつくばっている。泣きながら、なくした物を探している。
「私の……キジトラ……」
指で床をなぞる。化粧台の下を探り、膝立ちになり、蛇口周りを探る。
「私の、茶色い鳥……」
―2―
怖い風鈴と雨の下で、クグチは遠い強羅木ハジメの反応を待っている。
「どうして……」
強羅木は掠れた声で尋ねた。
「どうして彼女のことを知っている?」
「親父の遺言だ」
「あの動画を見たのか」
クグチは黙った。
「誰がデータを渡した? 向坂か?」
「さあな」
「向坂はどうしてる」
「行方不明だ」そして付け加えた。「桑島メイミも」
強羅木が何か言いかけるのを、クグチは遮った。
「話せよ。あさがおというのは俺の実の姉なのか? 今どこにいる? なぜあんたは黙ってた? 俺の母親は?」
「ちょっと待て、桑島は――」
「先に俺の質問に答えろ。あんたは俺を騙してた」
素早く言葉をかぶせた。
「騙してただと?」
「違うか? あんたは子供の俺に記憶がないのをいいことに、大事なことを黙ってたじゃないか。俺にはもう家族がいないと思いこませて、訂正しなかった。それが騙したんじゃないなら何なんだ? 言ってみろよ」
答えない。
「言えよ!!」
何か、うめくような声が聞こえた。クグチは沈黙して待った。強羅木が口を開くまで黙り続けるつもりだった。強羅木は通信を切らないだろう。養子に対して、彼にそんなことはできない。ならば話すしかない。イヤホンが重い。耳の中で沈黙が木霊する。
「……そうだ。あさがおというのはお前の姉だ。根津あさがお。道東で、母親と暮らしていた」
「根津?」
「お前の母親は、精神的な病に罹患し
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