EP.29 ジョゼの研究
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「(思ったより勢いがっ……)くっ!」
想像していたものよりも勢いよく飛んできたエルザをその場で完全に受け止める事はできず、衝撃を殺すためにとっさに後ろに跳んだ事も加えて、彼女に巻き込まれる形でワタルも弾き飛ばされてしまう。
「ぐえっ……!」
そのまま彼らの勢いを止めるものは無く、彼らは石壁に激突した事によってようやく止まった。
図らずもエルザのクッションになり、衝撃に呻いていたワタルだったが……嫌に湿った音の咳にハッとした。
「ゲホッ、ゴホッ――――くそ、たった一撃で……しかも、何をされたのかも、分からなかった……ゲホッ!」
「ッ、血が……! おい、大丈夫か!?」
鎧を砕かれた事も知覚できないままに呻き、肺が吐き出された空気を求めて咳き込むエルザ。内臓を痛めたのか、その咳には血が混じっていた。
下手をすれば命に関わる事態になりかねないと、慌てたワタルは彼女の耳元で叫ぶように呼びかける。
「聞こ、えてる……耳元で、叫ぶな」
「(意識はあるが、かろうじてか……戦闘は無理だな。それに……)」
身を呈して岩壁との間の緩衝材となったのが功を奏したのか、苦しげに呼吸しながらの細い声ではあるが応答したエルザにワタルは一応安堵する。
だが、彼女のダメージが深刻な事には変わりはない。戦闘続行が困難であるという判断をワタルが下すのに、そう時間は掛からなかった。
だが黒い人形の出現は状況を逼迫させており、ワタルはすぐにジョゼの方へ、その背後へと視線を向ける。
「(色も細部も違うが、あれはやはり……!)」
「……あの、黒いのは……一体……」
意識も朦朧としてはっきりしていないエルザだったが、ジョゼの背後に現れた黒いナニカ――視界は霞んでいたため、人型と判別できなかった――から、形容し難い、強いて言えば異質としか言えないものは感じていた。
正体はまったく分からないし、見当もつかない。しかし、まるで虫が花の香に誘われるかのような、本能的に惹きつけられる物を感じたのだ。
だが、密着している程にすぐ後ろからの、まるで戦慄したかのようなワタルの声で我に返る。
「なんであんな物がこんな所に……!」
「知ってるのか、ワタル?」
「ッ……」
膝をついて後ろからエルザを抱きかかえているワタルも彼女と同じように黒い人形を食い入るように見ていたが……緊張でひりつく喉に唾を送り込むと、彼女の質問に首肯し、口を開く。
「知ってる奴とは違うが、間違いない。昔の戦争で生まれた負の遺産の一つ……道化師だ」
戦慄、驚愕、怒り、そして恐怖……黒い人形・道化師とその主ジョゼは、ワタルのそんな感情をないまぜにした言葉に、同調したかのように口元に笑みを浮かべるのだった。
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