EP.29 ジョゼの研究
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いただろうに、彼は何も言う事無く自分の傍に居てくれた。
魔法を、知識を、自分や仲間を守る方法を、心構えを、他にも色んなことを教えてくれた。最近まで意識する事は無かったが、勝手に遠いと思い込んでいただけで、いつだって隣を歩いてくれていた。
今では想像もできないが、もし彼に拾われず一人のままだったとしたら、正気で歩き続ける事が出来た自信は無い。よしんば正気を保てたとしても、自分は誰ひとり寄せ付けず、仲間に囲まれて助けられてきた事にも気付けず、きっと一人のままだっただろう。
今の自分があるのは、彼が居てくれたからだ。自信を持ってそう言い切る事が出来る。
その彼を、謂れの無い罪にずっと苦しんできた彼を、コイツは何と言った。
「疫病神、サンプルだと……? 消えて喜ぶ者しかいないだと?」
半身、パートナーを侮辱され、今までに無い程に怒りを露わにしたエルザは憎しみすら込めて言葉に乗せ、吠えた。
「貴様に、生まれる遥か前に課せられた重い十字架を背負わされて、ずっと苦しんできたアイツの、何が分かる!!」
そんなエルザの激昂にもジョゼは全く堪えた様子を見せず、やれやれと首を振る。
そして…………
「……残念ながら、貴女にもう用は無い」
「ッ!? うあっ!!」
歴戦のエルザですら死を幻視させるほどに冷たい声を聞いたその瞬間……経験した事の無い寒気が背筋を駆け抜け、マグマのように煮えたぎっていた怒りは一瞬で氷のように冷え切ってしまう。
息を飲んで衝撃に備える暇もなく悍ましさを覚える黒い光が煌めき、彼女はまるで砲弾のような速度で吹き飛ばされた。今までとは桁違いの魔力に耐えきれず、彼女の身を守り、力になってきた鎧も砕かれてしまう。
悪寒、危険、離脱――――ジョゼの仄暗く、そして濃い狂気を宿した光に満ちた目を見た彼女にできたのは、これまでとは全く違う魔力の質に肌を粟立たせてそう思考することだけであった。
「(あれは……!)」
だが、離れていたワタルには長身のジョゼの背後に黒と紫色を基調とした人形が出現したのが見えていた。
長身のジョゼより頭一つ分高い所から頭部を覗かせているソレは人の形をしているが、放つ雰囲気は異質そのもの。
明らかに人ではないそれに、ワタルは見覚えがあった……いや、知識として知っていた、という方が正確か。
ソレは今ここに存在するはずがない、して良い物でも無いのだが……驚いている暇もない。
エルザは現在進行形でワタル目掛けて吹き飛ばされているのだから。
「(どうしてアレがあんな所に……? いや、それより……)エルザ!」
驚愕と戦慄を無理矢理押さえ込み、両手に持った鎖鎌を手放して彼女を後ろから抱きしめる形で受け止めようとしたが……
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