第十四章 水都市の聖女
プロローグ 赤い記憶
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幾分か思考がクリアになるが、胸の奥でヘドロのように蠢く何かは晴れる気配はない。
あの夢を見たあとは、数日はこういう気分になる。
あれから一年近く経ったというにも係わらず、全く変わらない。
これを解決する方法はわかっている。
方法は二つ。
どちらも簡潔明瞭―――わたしが死ぬか、奴を殺すか。
―――いや、方法は一つだけだ。
奴を殺す。
それは絶対だ。
「っ、今はそんな事を考えている時じゃない、か。待っていれば、あいつがその内迎えに来るとは思うけど何時になるかは分からないし……一応野営の準備だけはしておこうかしら」
ため息混じりに周囲を見ながら歩き出す。幸いにして短剣や革袋等ある程度の手荷物はある。森や川もあるようだし、数日ならば何ら問題なく過ごせるだろう。
「まずは何より水ね」
足の向かう先には細い糸のように見える川の姿がある。
歩き出したその時、視界の端に赤い何かがチラリと見えた気がした。
「ん?」
顔を向け目を凝らしてみると、いくつも見える丘の中、小高い丘の上に何かが見える。
「……人?」
ポツリと呟くと同時に、懐から短剣を取り出した。取り出した短剣を握り締める。距離があるとはいえ、警戒すべきである。遠く見える人影は、明らかに猟師等ではない。遠すぎて詳細なところはわからないが、どうやら鎧のようなものを付けているようにも見える。この見るからに山奥で、何故鎧を?
不可解である。
もしかすると、人ではないのかもしれない。
人のように見えて、人ではないナニカを、自分は知っている。
悪魔と呼ばれる化物どものことを。
人の姿でありながら―――人ではないあの悪魔ならば―――。
「……殺られる前に―――殺る」
短剣を握り直しながら、口元を歪める。
湧き上がる戦意に反応するかのように、左手に刻まれた文字がぼんやりとした光を放つ。
浮かび上がる文字は、とある言葉でこう書かれていた―――ガンダールヴ、と。
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