第二章
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その証拠に彼女は佐藤から目を離していなかった。
「まさかとは思いましたけれどね」
「全ては神の思し召しです」
胸にかけてあるロザリオを軽く握って言った。
「栗脇さんと佐藤君のことは」
「神の思し召しですか」
修治はそれを聞いてまた何かを決した。
「恋は神の思し召しなんですね」
「その通りです」
シスターはにこりと笑って頷く。あの優しい笑みであった。
「人が人を好きになるというのは素晴らしいことです」
「そうですね」
修治もそれを聞いて頷いた。
「全く。その通りです」
「けれどそれが何か」
「シスター」
修治はあらためてシスターに顔を向けてきた。
「はい」
「実は貴女に御会いしたい方がおられまして」
「私にですか?」
「はい、明日大学の教会で。三時半にです」
彼は言った。
「その時間に御会いしたいとのことですが。宜しいでしょうか」
「ええ、まあ」
シスターは何が何かわからないといった顔で応えた。どうやら彼女は他人のことはともかく自分のことには極めて鈍感なようであった。
「私なぞで宜しければ」
「ではお願いしますね」
「はい」
修治はここまで言い終えて内心かなり汗をかいていた。精一杯の勇気と覚悟を以って彼女にこう切り出したのである。これを言わせたのは他ならぬシスターミカエラ本人であったが言ったのは彼である。言わなければ話ははじまらない。はじめるには勇気がいる。その勇気を与えてくれたのが彼女自身であったのだ。
(明日だ)
彼は心の中で呟いた。
(明日で全てが決まるんだ)
「あの」
シスターはまだ何が何かわからないという顔であった。
「私なぞで宜しいのですね。牧師様ではなく」
「はい、貴女です」
修治は強い声で言った。
「貴女でなければ駄目なのです」
「わかりました。私なぞでよければ」
そこまで言われて引き受けないシスターではなかった。こくりと頷く。
「その方にお伝え下さい。明日の三時半に教会でお待ちしていますと」
「はい、ではその様に伝えておきます」
「お願いしますね」
やりとり自体は何の変遷もなく進んだ。だがシスターは修治が何を考えているのかも自分が彼にどう思われているのかもわかりはしなかった。わかっているのは修治だけであった。
彼はシスターと別れると早速明日への準備をはじめた。念入りに風呂に入り、一張羅を出して髪を切り、そして香水をかけて赤い薔薇の花束を買って。全ての準備を整えたのであった。
「人が人を好きになるのが神様の思し召しなら」
三時半が近付いて来る。彼はその赤い薔薇の花束を持って教会に向かう。
「言ってみてもいいよな。そして」
顔を教会に向けた。
「神の御加護を御祈りしよう」
そう呟いて教会に入って行った。そして自分の
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