第二部 文化祭
第54話 偽物の歌声
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な名前でしょ」
「ふふ、寒さに強そうなお名前だね」
「褒め言葉として受け取っておくわ。っていうか、まりあ。あんた、目的もなしに此処へ来てたわけ?」
「う、うん。暇だったし……心の準備っていうのもあるけど」
「はは、私もそんな感じだよ。今日は、あのヴェルディ先生がウィーンから来日して、うちの文化祭見にくるみたいだし」
「……ヴェルディ、先生が……?」
「そ。エミリーE・ヴェルディ」
エミリー・E・ヴェルディ。
まりあが心から尊敬している、世界的に有名な女流音楽家である。しかし、そんなトップスターとも言える人物が、どうしてアインクラッドの文化祭に来るというのだろう。
そんなまりあの心情を読み取ったのか、美冬はにこっと微笑み、言った。
「なんかさ、茅場学園長の知り合いなんだって。すごいよねー、うちの学校って。あんた、ヴェルディ先生のことすごく慕ってるわよね。知らなかったっぽいとこが逆に意外なんだけど」
「ぜ、全然知らなかった……どうしよう、ますます緊張してきちゃった」
「ほう、やっぱりまりあは歌うの?」
「う、ううん。そんなこと、恥ずかしくてできるわけが──」
そこで言葉を止めた。
美冬が知っているのは、恐らく《音楽妖精のマリア》の事だけ。桜まりあの、たかが知れた歌声のことなど知らないだろう。ここで「恥ずかしいから人前では歌わない」などと口にしてしまえば、マリアのイメージを崩すことになりかねない。
まりあは作り笑いを浮かべた。
「えっとね、そうしたいところなんだけど……最近ちょっと喉の調子が悪くて、文化祭では歌わないことにしたんだ。代わりに作曲係かな」
「あら、それは残念。まりあの本物の歌声、聴いてみたかったなー」
「こ、今度、幾らでも歌ってあげるよ」
「さっすがまりあね。それじゃああたしは、そろそろ準備しなくちゃだから、この辺で失礼するわ。またね、まりあ。あんたの作った歌、期待してるね」
「……うん。またあとで」
まりあは力なく手を振った。
──まりあの本物の歌声
マリアの歌声は、あくまでも偽物。作り物の声。桜まりあのものではない。
何気なく言ってみただけであろう美冬の言葉は、まりあの胸に深々と突き刺さっていた。
何分間、こうして座っていただろうか。
和人に声を掛けられなければ、きっとずっと動かず、中庭のこの噴水の縁に座り続けていたことだろう。まりあの隣に腰掛けた彼は、呟くような小さな声で言った。
「なにかあったのか?」
「へっ……?」
あまりにも予想外な質問に、まりあは一瞬呆気にとられた。
和人が、尚も真剣な表情で言う。
「いや、なにもないならいいんだ。た
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