第三章
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第三章
「奇麗ね」
「そうだろ?月並みな言葉だけれど」
「宝石を集めたみたい」
笑って言われた。
「そういうことよね」
「あっ、わかるんだ」
「何か言いそうだったから。その通りだったみたいね」
「そうだよ。言おうと思ってたんだ」
本当にその通りだった。その言葉を先に言われて。僕としては苦笑いするしかなかった。けれどここで彼女の顔を見てほっとした。
笑っていた。いつもの笑顔になっていた。そのほっとした気持ちのまま僕はまた言った。
「今ね。仕方ないなあ」
「仕方なくても次にまた言うのよね」
「そうさ。僕の哲学は諦めないこと」
実際にいつも言っていることを言ってみせた。
「だからね」
「やれやれね。それでこの夜の街はね」
「どうかな」
「いつも通りね」
とのことだった。
「いつも通り奇麗ね」
「それはいいことだね」
「いいことかしら」
「いつも通りに見えるってのはいいことだよ」
だからだと言ってあげた。今の彼女の気持ちを察しながら。
「それはね。じゃあ今度は」
「別の場所に行くの?」
「僕の家、ってのは駄目かな」
わざとこう言ってみせた。ジョークをふんだんに交えて。
「それは」
「奇襲ね」
彼女は笑って僕に返してきた。
「またいきなり」
「そうだよ。けれどそれは嫌かな」
「いいわ」
けれどだった。彼女は僕のその言葉を受けてくれて。そうしてだった。
「じゃあ行きましょう」
「そこでまた飲もうか」
「あら、そこででもなの」
「そうだよ、場所を変えて飲むのも悪くないじゃない」
「そうね。それじゃあ」
「じゃあ行こうか」
こう話してだった。僕は彼女を自分の部屋に連れて行った。そうしてそのうえでだった。そこでも飲むのだった。今度は楽しく憂いなんかなく。
抱き締めてTONIGHT 完
2010・10・7
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