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クルスニク・オーケストラ
第四楽章 心の所有権
4-2小節
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勉強して出直せ」

 もう指導係じゃございませんのに、的確なアドバイスをご親切にどうもっ。

 はあっ……腹に貰った一撃がずくずく痛む。

 お腹を抱えて座り込んでいると、不意にユリウス室長がわたくしの前でしゃがみ込んだ。そして、わたくしの手の中に何かを握らせた。……FD?

「敢闘賞だ。返してやるから死なない程度に働け」

 がんばりを認めて返してくださるなんて……そんなこと……

「――そんなお芝居が通じるとでも思いました?」

 ナイフを瞬息で室長の首に横から突きつけた。

 がっかりですわ。仲間に嘘をつかない、というのが《わたくしたち》の大事な《ルール》の一つだったのに。

「――。何のことだか」
「これは偽のデータでございましょう? 室長がそれらしく数値を改ざんした偽造データ。本物はどこかに隠したか預けたか。分史世界の解析データは室長ご自身にも必要な品ですから、破棄したという線は薄いですわ。一度偽造データを渡して時間稼ぎをする内に、ご自身は《道標》を独占なさろうとした。違います?」
「……相変らず可愛げがない」
「小賢しいとおっしゃってくださいまし」
「80点。俺は今本物のデータを持ってない。どこに隠したか分かるか?」
「実は皆目見当がつきませんで困っております。自供してくださる気はございません?」
「ない」
「ですわよね」

 ここでユリウス室長を抹殺するという荒業もあるにはあります。わたくしの槍は《精霊の呪い》によって刺し殺した者の《レコード》を吸収するのですから、骸殻状態でユリウス室長を刺せば、室長の記憶からデータの在り処も分かるでしょう。

 ですが、わたくしには室長を殺せません。仮に殺したいと思って行動しても《レコード》に阻まれます。
 生前にユリウス室長を慕っていた部下5人分の《レコード》が脳をジャックし、行動のコントロールを奪う。考えるだに恐ろしい。

 何より、それはルール違反。ユリウスせんぱい自身が提案した、「仲間を殺さない」というルールを破ってしまいます。

 ここはちょっぴり情に訴えてみますか。

「わたくしも、室長が意志を翻さないのと同じで、今も志は変わりません。わたくしの中の《彼ら》に、彼らが最期に見た絶望を上回るハッピーエンドを」
「他に選択肢はないのか」
「そんなもの。問答無用でグランドフィナーレ一択ですわ。あんなに必死になって戦った方々が幸せな結末を見ることさえできないなんて嘘ですもの」

 彼らの犠牲の上にわたくしたちの今日がある。

 ある人は《道標》の詳しい知識を。
 ある人はかの地の《番人》との戦いの記録を。
 ある人は《橋》についての正しい方法を。

 全てがエージェントを生かす有益な情報となった。

 感謝して
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