白が愛した大地
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したい、そう表すかのように。
七乃はニコニコ笑顔を崩さずに、その視線を跳ね返す。内心で震えながら。
「では、今回は“会談こぉす”につき、随時料理を運んで参ります故、何か追加で注文する際はお申し付けくださいませ」
ぺこり、とお辞儀をして副店主が下がった。
ゆっくりと、七乃は歩みを進める。引き戸を開けて入った部屋の中、一人の少女が慎ましく座っていた。
三角帽子に蒼い髪、有名な私塾の衣服は智者の証明。彼女は立ち上がり、優しい微笑みを七乃に向けて来た。
「ふふっ、初めまして。急にお呼び出しして申し訳ありません。私は曹操軍よりの使者、鳳士元と申します」
ニコッと笑いかけてきた顔は愛くるしいはずなのに
紡がれる声は甘いモノであるはずなのに
その翡翠の瞳に、七乃はなんら暖かさを感じ取れなかった……鏡に映る、自分と同様に。
「初めまして♪ 袁家より幽州を任されている張勲と申します」
ニコニコ笑顔で返しても、一筋も少女の瞳はブレなかった。
彼らが願いを紡いだ部屋の中、たった一人の幸せだけを願う者達は
脳髄の隅々にまで、大切なモノの為の手札を並べ行く。
〜集え白馬に〜
白馬が駆ける。ただ駆ける。
今尚この地を守らんとして、主が変わろうとも駆け続けた。
我らの主はこの地を守れと最後に命じた。破ろうとも思わなかった。
外敵は既に押しのけたが、彼女は……もういない。それでも我らは守り続ける。
しかし……国境付近のこの街で、大酒を飲んでいた男達の話が、耳に残って仕方ない。
“集え白馬に”
命を繋いだ主は、城中に響き渡る声で泣き叫んだという。
泥濘の中を足掻く悔しさよりも、家と家族を失った事に絶望し、黒の胸で涙を流し続けたという。
黒は主を先に逃がして、自分は命を賭けたという。
黒の身体は……白馬の片腕と同じ策を以って、黒の命を繋いだという。
“集え白馬に”
そして白の友である黒は、再び我らが主の代わりに戦っているという。
――なんと不甲斐無い。
頭に歌が響いて心が燃える。
自分達は、主の命に従っている。それこそが忠義の証明となるのだ。なのになんだ、この無様さは……。
“集え白馬に”
主は泣いたぞ。
主は傷ついたぞ。
主はこの地を追われたぞ。
『皆の事が大好きだ』
赤い髪を揺らし、照れていながらも満面の笑みで彼女は言った。
――あの笑顔を……俺達は守れなかったんだぞ。
悔しさが沸き立ち、憎しみが燃え上がる。
幾月幾年の時を越え、見知った顔はまだ多く。
誰であれ、黒が戦っているの
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