白が愛した大地
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夜天の間”でお待ちです。ただ……」
「分かってますよぉ。どうぞ」
「では、失礼致します」
給仕はおしとやかに礼をしつつ、身体検査を念入りに始める。そこいらの男よりも武力が高い給仕ばかりを雇っているため、七乃では逆らえるはずも無く。近衛兵も同じように、他の給仕に身体検査を行われ始めた。
この店は……街自体の利益率から言っても外せない大きな力。権力を以って無理やり潰しても構わないが、それを判断するのは七乃ではない。よって、潰していない限りは、この地に暮らしている限り、習わしに従わなければならない。
店長を知らぬ人が聞けば不可解極まる店である。政治利用される事を嫌うが、為政者が集うなら政治事の話が出るは詮無き為に、料理をおいしく食べた後なら構わないという決まりがあるのだから。
さらには、武器の持ち込みは全面禁止、暗殺の類は給仕達が命を賭けて阻止し、護衛を入れるなら許可を得て行うべし……これほど異質な店は他にない。
今回は特別に、共に食事をする相手が相手なだけに、店側からこうした介入が施されていた。
「失礼致しました」
給仕がお辞儀を一つ。何も武器の類がないと示されて、ほっと副店主も安堵を一つ。
「では、ご案内致します」
漸く案内されたのは一つの部屋。この店の店主の友である三人が願いを紡いだ……今は夜天の間と呼ばれる部屋であった。
部屋の前には二人、兵士が並んでいた。青では無く、緑の軽装。目に入った途端、七乃に侍っていた兵士達の表情が絶望に染まった。
その兵士達はわざわざ見せつけるように袖をまくり上げていた。傷だらけの腕には黒の布が巻かれていた。そして首から下げられているのは……黒の嘶き。どの部隊の兵士であるのか、それだけで直ぐに理解出来た。
――こんな小さな所にまで、心理戦を仕掛けてくるんですか……
兵士達が怯えるのも無理は無い。もはや袁術軍は、ソレと向かい合うだけで士気が挫かれる。彼らに与えられた恐怖は、心の奥底に根付いてしまっている。
恐ろしい、と七乃は思う。
今から話す相手は、自分では本来、太刀打ちできない弁舌を持つ使者。それとたった一人で相対するなど……いつもなら絶対にしない。
相手が過去の情報通りであれば良かった。怯えが色濃い、引っ込み思案な少女であれば良かった。決して前に出ようとしない、次席で甘んじていた雛ならば問題無かった。
儚い願いだ。自分が相対するのは、もう雛に非ず。
大切な愛しい少女の笑顔を頭に浮かべた。七乃が遣り切らなければ、美羽は……。
会う前から気圧されては敵の羽に焼かれると、意思を固めた。
七乃達に気付いた敵の兵士達が先に部屋に入った。一寸だけ向けられた彼らの鋭い瞳には……抑え切れない程の憎しみが溢れていた。殺せるなら今すぐにでも殺
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