白が愛した大地
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知らない。黄巾の乱が起こったのは歌があったからとは知らない。
あの大乱の中心に位置していたのは三人の姉妹。今は魏に所属する役満姉妹である。
彼女達は特殊な書物から人心掌握術に舞台知識、そして妖術を手に入れた……が、それは名を上げる力を伸ばすに至った切片に過ぎない。
彼女達に紡がれる詩は想いを広げる力を秘めていた。甘く響く天与の歌声は心を奮わせるナニカを宿していた。
誰にも知られていない事だが、役満姉妹が特殊な書物を得たのは、歌によって人の心に想いを響かせたからだった。
背の高い一人の男が心打たれて、盗んだ書物を手渡したのが事の始まり。
彼女達三人は、確かに才を持っていたのだ。人の心を歌で動かすという稀有な才能を。
なればこそ、現代でも到底有り得ない技術を要した三姉妹が、何十万という民を奮い立たせ、大陸全土を巻き込み、乱世の始まりを起こせたのだ。
その力が、たった一つの大地に与えられる……それがどれだけ恐ろしい事か。
華琳は、その力を正確に見極め、理解を置いた上で使った。間違いなく、黒麒麟を手に入れる為だけに、彼女は全ての力を使ったのだ……黒麒麟を手に入れられなければ、この黄巾の乱よりも濃密に出来上がった大地が敵になっていたにも関わらず。
ただ、現在の状況は華琳の予測を越えている。他のどの地でもこのような事にはならない。白蓮が治めていた土地だからこそ、この幽州の大地は歌う事を止めない。
そして今の情報を耳に入れて、この地の大切さを知る天才軍師が……華琳の張っていた糸を利用しないはずがあろうか。
愛しい男が本当は帰りたかった家を、守らないはずがあろうか。
七乃は二人の近衛兵を引き連れ城を出て、一つの店に向かった。
その店の店主とは話した事がある。建業に支店を建てる事に七乃は許可を出していた。しかし今、店主は居ない。一号店よりも二号店に重きを置いているのは……この地の主が変わったからだ。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
ポニーテールに括られた髪、活気あふれる声と営業スマイルは変わらない。この店のモノだけは、誰にも憎しみを向けない。そういった風に教育されている。
料理を楽しむお客様は平等に主。それが二号店を立ててから後、娘娘で働くモノに敷かれた鉄の掟であった。
「これはこれは張勲様、いらっしゃいませ」
笑顔で迎えてくれる副店主の瞳にも憎悪の影はなく、七乃はほっと息を付いた。最近はこの店だけが、七乃にとって心の潤いだった。
手が出ない程に高いモノだけでなく、食べやすいモノも置いている。それでも高い事に変わりは無いが……殺気を一つも感じない場所、そして間諜も斥候も隠密も気にしないでいい時間というのは、七乃にとっては金を払ってでも欲しかった。
「予約の御方は“
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