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抱き締めてTONIGHT
第一章

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第一章

                   抱き締めてTONIGHT
 夜になってバーに行くと。彼女がいた。
 けれど何かおかしい。普段と違う。
 いつもの勝気な様子がなくて。浮かない顔をしている。長いロングヘアにはっきりとした化粧はいつもだけれど強気の目が何故か伏せられている。端整に着ている膝までの白のタイトも同じ色のスーツも何故か弱く見える。
 顔は前を向いているけれど視点が定まってない。やっぱりおかしい。
 カウンターにそんな姿で座っている彼女を見てだ。僕は声をかけた。
「ねえ」
「何かしら」
「どうかしたのかな」
 笑顔で彼女に声をかけた。わざと照明を暗くしてある店の中で彼女のその白い服が映えている。けれど今映えているのはその服だけだ。
 表情も雰囲気も浮かなくてだ。何かどうしようもない感じだ。
 その彼女にだ。僕はまた声をかけた。
「何かあったのかな」
「別に」
 彼女は僕から視線を逸らして話した。
「何もね」
「何もないって?」
「そうよ、ないわ」
 素っ気無い返事だった。
「別にね」
「本当に?」
「私が嘘を言ったことがある?」
「あるよ」
 僕はまた笑顔で彼女に話した。話しながらそのうえで彼女の隣に来て言った。
「とりあえず隣の席に座っていいかな」
「いいわよ」
 いいと返してきた彼女だった。
「好きにしたら」
「つれないね、今日はまた」
「そうかしら」
「そうだよ。まあいいさ」
「そこに座るのね」
「うん」
 僕はここでも笑顔で答えた。
「お言葉に甘えてね」
「何か今日は馴れ馴れしいわね」
「そうかな」
 僕は彼女の横の席に座りながら答えた。
「そんなことはないけれど」
「馴れ馴れしいわ。まあいいわ」
「それでもいいんだ」
「許してあげる」
 こう僕に言ってきた。
「それもね」
「それは何よりだよ。それじゃあ」
「ええ」
「飲もうか」
 まずはそこからだった。お酒からにした。
「そうする?」
「もう飲んでるわよ」
「それは一人でだよね。これからは二人でね」
「それで飲むのね」
「そうだよ、二人で飲もう」
 また彼女に言った。
「そうしようか」
「全く。馴れ馴れしいわね」
「けれどそれでもいいんだよね」
「ええ、いいわ」
 彼女はまたこう言ってくれた。僕からその顔を少し背けてだ。けれどそれは完全に背けちゃいない。横目で僕を確かに見てのうえだった。

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