十二幕 これからはずっと一緒だよ
7幕
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ュード……」
「こいつらが過保護にならないよう、俺も見張っててやるからさ」
「一番、過保護になりそうなくせに」
ミュゼに言われてアルヴィンは苦笑いを浮かべた。
「もうお前は卑怯者ではない。胸を張れ。志を貫いた、勇気ある娘よ」
よかった。終わってしまう前にガイアスに認められて。これでフェイは間違った卑屈さや卑怯さと向き合っていける。それがほんの数秒後に終わる生でも。
「君のおかげで、また使命を果たすことができた。感謝する、フェイリオ・メル・マータ」
フェイは無言で首を縦に振った。あの日堕ちていった〈ミラ〉を、もう悪夢に見ることはないだろう。
「……フェイ。何か欲しいもの、あるか?」
「ほしい、もの?」
「何でもいい。俺とエルにしてほしいこと、ほしいもの、ないか。あったら全力で叶えるから」
「何でもいいの?」
エルもルドガーも半泣きで、それでも力強く笑ってくれた。
だから、フェイも遠慮しないで気持ちを告げた。
「うたって?」
――カナンの地に二つのハミングが流れる。
ルドガーとエル、二人の声を重ねた歌。
証の歌。会いたくてたまらない相手への想いを込めた歌。
クルスニクに伝わる、こころうた。
ヴィクトルは一度もフェイのために歌ってはくれなかった。だから、一度でいいから聴いてみたかった。他でもないフェイだけのために奏でられる、そのメロディを。
しかも今は、未来の父だけでなく、大好きな姉も一緒に歌ってくれている。
何て、幸せ。
『さようなら、人と精霊たち。また会う日が、今日より少しだけ、いい日でありますように』
重厚な音を立ててカウンタードラムが閉じてゆく。ミラもミュゼもすでに去った。その間もルドガーとエルの歌は続く。
999999を示したカウンターが回る。
カウント、000000。オールリセット。
白光が炸裂し、フェイ・メア・オベローンだった因子は粉々に砕け散った。
光が晴れた時、ルドガーとエルの間に横たわっていたフェイは、いなかった。
可能性の中の、もう一人の愛娘。エルがパートナーなら、フェイはルドガーにとってまぎれもない「我が子」だった。守り、慈しむべき娘だった。
「フェイ――」
エルが、今は彼女のものになったフェイの体を両腕で抱きしめる。ルドガーも、成熟した少女となったエルを強く抱いた。
鼓動がある。体温がある。この体をエルが生かす限り、フェイは生きている。
「長い間独りぼっちにしてごめんね、フェイリオ。これからはずっと一緒だよ」
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