終わった世界で
一 雨と心音
[5/9]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
の色が渦巻く幻影。
存在するだけで。近付くだけで欝と躁、感情を揺らし、心を潰す。直に触れずとも物を移動させ、破壊する、私たちの理解を超えたその力を。私達は既に、この目で見たことがある。
ESP。平たく言えば、超能力。言葉だけを聞けば、絵空事、空想の産物。しかし。
それは。実際に、今。こうして、現に存在していて。目の前にいる彼女……造物主、ネクロマンサーは、あの時。この手のアンデッド兵器を、オラクル、と。そう呼んだ。
私達の古傷を抉る。心の底から、忌々しい、と。そう、あの。造物主へと面と向かって――顔も知らない奴へと向かって。怨嗟を吐き出したくなるほどに。
銃口を浮遊するそれへと向け、舌打ちと共に引き金を引く。人間よりも頑丈で、比べ物にならない程の筋力を持ったアンデッドの肉体はその凄まじい反動を殺し。跳ね落ちる薬莢。対戦車ライフルの撃ち出した銃弾は、真っ直ぐに。浮かぶ少女、オラクルの身体へと飛び。
その、背後。浮遊していた瓦礫を撃ち砕く。ESPに拠る緊急転移。避けられるであろうことは、承知の上。今は只、マトから引き剥がせればそれでよかった。
「マト!」
頭を抱え。呻く彼女の体を抱きしめる。短い黒髪、埋もれた指。彼女の備えた鉄の爪は、自身の身を傷つけたらしく僅かに、赤く。彼女の体ならばその傷も既に、塞がっていることだろうけれど。
「大丈夫、大丈夫だから。私がいるから。落ち着いて。ほら。大丈夫だから」
子どもをあやす様に。彼女の冷たい、強張った体を抱きしめ、語りかけ。オラクルの気配、入り口で見た何かが近付く足音。時間が無い。彼女が立ち直れないならば、今、この場は。私一人でマトを守らねばならない。
そっと。彼女の体から。手を、体を。離し――
服の端を。弱々しく掴まれて。長い彼女の爪、傷つけないようにと、曲げた指を以て。
「……大丈、夫。ごめん。ありがとう」
服を掴んだ彼女の手を取り。若干、ふらつきながらも。立ち上がる彼女。顔を上げれば、浮かぶのは。
今にも泣き出しそうな表情。それでも、必死で堪え。私の背後、近付く気配を睨みつけ。彼女の背から伸びた腕を、備えた爪を敵に向け、今にも飛び掛りそう。
「……無理は」
「無理してでも」
言葉を遮られる。普段のそれより、荒い声で。
「戦わないと。あなたまで、壊されたくない」
獣の足が床を蹴る。近付きつつあった人型、数本の腕、その先に構えた鎌。顔は、無く。あるのは昆虫のそれにも似た顎、大口のみ。禍々しい見た目、剥き出しの敵意へと。彼女は、爪を振り上げ、飛び込んで行き。
「……私も」
もう、此処からでは聞こえないだろうと。分かっていながら。
「あなたに、壊れて欲しくない」
引き抜
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ