喰らい乱して昇り行く
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けられた声は断金のモノ。
冷たい雫が脳髄に落ちて思考が巡る。覇王がその程度のモノであろうか、と。
――求めたのは黒麒麟であり、郭嘉を天秤に掛けた……違う。そうじゃない。私が袁術に従うしかなかった理由を帝に示せ、と言っている。あくまで曹操は公平に、誰かが生き残る場を作っている。
経験と能力から解に至る。
劉表に協力の手を求めれば良かったではないか、と入れなかったのがその証拠。先代の虎は親族、それが関係しているのだから言わずとも伝わる。
道ずれにしたければすればいい。切り返す手も持っているし、誰も切り捨てるつもりは無い……華琳はそういう言い方をしたのだ。詮議の司会の役割を為しつつ、雪蓮にこう問いかけた。
『好きに動いてくれていい。邪魔をするつもりは無い。自分が生き残る為にはどうすべきか考えて、乱世を生き抜ける王であると私に証明してみせよ』
一筋の切り傷を与えて身を滅ぼすか、それとも傷だらけになりながらも切り抜けるかの選択肢を与えながら、雪蓮の器を試しに掛かっていた。
注意喚起をしてくれる最愛の友に感謝を述べつつ、雪蓮は劉協の目を射抜く。
吹き抜ける蒼天の色は何も映さない。興味を持っていない。一欠片も、これっぽっちも雪蓮に期待していなかった。
「それにつきましては、袁家と我らの関係をご説明せねばならぬ次第に」
グッと胸に力を込めて、雪蓮は見つめ続けた。結ばれる蒼の双眸が二つ、どちらも揺れる事は無かった。
「申して見よ」
劉協は口を開かず、代わりとばかりに華琳が声を投げた。
雪蓮の頭には、救い出した妹の泣き顔が浮かんでいた。
今から話すのは嘘。自分にも、相手にも、誰彼かまわず嘘をつく。そうしなければ、生き残れない。
偽るのは不快でしかない。それでも……家族で叶えたい夢がある。
「……先代の虎が劉州牧と争ったのは大陸に於いて周知の事実。その間に袁術が揚州太守に任ぜられ、一族郎党討ち滅ぼされても詮無き状況ながら、先帝陛下の御慈愛を賜って命を繋がせて頂きました」
敗走後、雪蓮や蓮華達は反逆者として断じられても仕方ない状況に居た。それでも生き残れたのは劉表がそれを放っておいて、先帝が何も命じず、且つ、袁家が客将として首輪を付けた為だ。
恐ろしい、と雪蓮が改めて思うのは七乃と劉表に対して。
七乃は……夕や明と繋がりが濃いと情報から分かっている。だから、袁家に思い入れなど無い事が容易に分かる。
孫呉の手柄は全て美羽に行く。獅子身中の虫と為しながらも、有能な人材を扱う事によって“美羽の為だけのもう一つの袁家”を作り出そうとしていたのだ。
前の戦で一騎打ちの時に明が語った事から予測は立っていた。もし、夕や明が袁家を内側から壊していたなら、受け皿にもなれただろう。
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