喰らい乱して昇り行く
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「安心しろ。私にはお前が全てだ。如何に早く隠居したいとお前が喚こうとも、な」
苦笑しながらの言葉でブレる事は無いと伝えているけれど、智者としてどうしようも無く惹きつけられている気持ちへの裏返し。
――そうか、私の半身が奪われそうに感じたから、私は恐ろしく感じたのか。
もやもやと野暮ったいモノが胸に湧く。どうしようもない黒い炎。嫉妬……だろう。
手に入れたいと自分も思ったが、愛しい人の心を奪われそうになるなんて思わなかった。
彼女の恐怖心を和らげてあげよう。そうすれば、奪われる心配も無いのだ。
「あいつが全てを予測してたなら曹操軍には行ってない。だからその恐れは杞憂よ、冥琳」
自分で言って笑いそうになった。
冥琳の話を聞いてしまうと、それさえ狙ってやっているのではないかと思えてしまう。曹操軍を内側から染め上げて壊そうとしているのではないか、そんな事まで考えてしまう。
何をしているのか、何をして来るのかも分からない。矛盾の塊とは、言い得て妙か。
アレは影……否、黒だ。
あいつは黒。どうしようも無く人を引き摺り込む黒。染め上げてしまう黒一色。あの曹操でさえ、自分の予定を変えてまで欲する程なのだ。
頭を振った。
疑念猜疑心に捉われては何も進まない。こんな下らないモノで脚が止まっては、私じゃない。
そっと彼女の手を包む。少しばかり冷たかった。それが逆に、私の高い体温を覚ましてくれて心地いい。
「今は龍の事を考えましょう。遠くの敵を見ていたら近くの敵の剣を見逃してしまうでしょう?」
「……すまない」
ゆっくりと撫でさすると彼女は穏やかな声で明日の謁見での内容を口から出していく。
座りなおして、虎の敵だけを頭に思い浮かべて、黒がちらつく思考を掻き消して行った。
死にかけだとしても目前に迫る敵は嘗て敗北した巨龍。
敗北しても、虎視眈々と狙い定め、機を見て家を取り戻し、天下を狙う私達は……誇り無いだろうか。未だに夢を追い掛ける私達を誰かは嗤うだろうか。
誰に言われても曲げないし、最後までやり通そうと心に決めている。
例え妹を使おうと、家族を生贄に捧げようと、自分達が望んだ平穏を手に入れようと決めている。私が行く覇の道は冷たく厳しいモノだ。
彼女と二人で先頭を歩いて行こう。
まるで呪縛のようなこの関係は、いつしか断金と言われるようになっている。
――あなたと一緒ならなんでも越えて行ける気がするって言ったら……可愛らしく笑ってくれる?
この“戦”が終わってから、必ずそう言ってみよう。
†
ケホ……と喉に絡みつく咳が一つ。
死人のように青白い顔、目の下の隈はより濃く深く。皆の目には無理
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