喰らい乱して昇り行く
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「冥琳……何がそんなに怖いの?」
ピク……と身体が跳ねた。正解だったらしい。彼女は何かを恐れている。
緩い吐息は熱かった。それが何故か……私には恐ろしく感じた。
「ふふ、全く……勘が鈍くなったとはよく言う。やっぱりあなたには隠し事が出来ないじゃない」
自嘲気味な苦笑を一つ。呆れたようにも思える。でも、やはりおかしい。
「そうだな、私は恐れている。怖くて堪らない。乱世の先に思考を回せば回す程に、憎しみが霧散して行くんだ。孫堅様が死んだとき、あれほどの憎しみがあったというのに、だ」
孫呉で最高の頭脳である冥琳が何を恐れているのか分かってやれない。その方が私にとって恐怖だった。
「鳳雛が徐州での戦の最中、私に告げたんだ。黄巾から既に大陸を割ろうと考えていたモノが居た、と」
一瞬、思考が止まる。
誰がそんな事を思い付くのか……黒い影が頭を掠めた。
「分かるか? 蓮華様が練り上げたのは……そいつが大本を出した事案。そして建業に建設中のあの店も……そいつ所縁の店。袁家による幽州侵攻を読んでいたのも、蓮華様と一騎打ちをしたというのにこちらと盟を結ぶために敢えて逃がしたのも……そいつなんだ」
大陸で噂される名店が建業に立つのは袁術が居た時から決まっていた。その店は曹操の所に一つ、幽州に一つ。大陸全てに支店を置こうと野心を燃やすその店は、何故、都では無く、黄巾が終わって直ぐに曹操の所に支店を展開したのか。
あんな大戦の直ぐ後で、勝利の余韻に浸ることも無く、誰よりも早く幽州侵攻の注意喚起を行うなど……通常の思考では有り得ない。
そして蓮華を殺されていたら、劉備を滅ぼしてから曹操と共に袁家打倒を……と考えただろう。
じわじわと、足元に忍び寄る黒が感じ取れた。
「掌で踊らされている感覚は劉表の策に感じる。だが……そいつにはそれ以上に、全てを見透かされているような気がしてならない。だから……怖いんだ。大陸で唯一の例外が、矛盾の塊のあの男が、黒麒麟徐晃が……ただ恐ろしい」
ああ、と思わず息が漏れた。
これは楔だ。抜こうとしても尚食い込む類の、軍師の心に根深く刺さってしまう楔。鳳雛は冥琳の心に最悪なモノを打ち込んだ。
頭が良ければ良い程に、その存在を殺したくなるだろう。同時に……
「あなた……知りたいんでしょう?」
知りたくて仕方なくなる。
分からないモノは恐ろしい。理解出来ないモノは自分の物差しで測りたくなる。そうしなければと、彼女達は溺れてしまう。それほど彼女達のような生き物の欲は抑えがたく度し難い。
「……好奇心は猫を殺す。いや、虎をも殺すのかもしれないな」
自分を虎に例えてまで……否定はしない、という事か。私の前だから、直接は言わないだけ
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