喰らい乱して昇り行く
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いや、張勲の政策を見てきた小蓮は、何処をどう改善すべきかをよく理解している。どうにか最近になって手伝ってくれるようになったのは嬉しい事だが、亞莎と仕事をするだけで、蓮華との蟠りは深まるばかり。
蓮華の想いは理解している。その上で、私は二人共に冷たくならなければならない。
この先に打つ、たった一つの非情な一手の為に。
「……劉表が死んだ後の話も含んでる……って事ね」
「その通り。袁家が勝とうと、曹操が勝とうと、劉表が死んでから劉備と盟を結ぶためには必要な事……なのよ」
苦しげに寄せられた眉が厳しく深まる。絶望に堕ち込む瞳の色はただ昏い。
「……そこまで考えてくれたなんて、さすがね、冥琳」
軽く言うと、目を伏せて彼女は喉を鳴らした。
「勘だけには任せられんからな」
得意じゃないくせに緩い空気に無理やり持って行こうとしている。冥琳はやはり……精神が摩耗している。私達家族をたった一人で支えているのは、彼女なのかもしれない。
甘えだ、これは。
私はいつも助けられている。こうして見えない所に気付いてくれるから、そのままでいられる。
まだ彼女には、何も返せない。返すにはまだ時機が足りなさすぎる。
「いつもありがと」
「どういたしまして。しかし珍しいな。お前の勘が働かんなんて」
「うーん……私も不思議なんだけど、最近調子悪いのよ。でも、その分を補おうなんて考えないでね?」
「……ああ、肝に銘じておこう」
誤魔化しただけだろうに。そう言いながらも彼女は頭を使って私を補うのは分かってる。
背中に周り、ゆっくりと抱きしめて顎を頭に乗せてみる。ため息が零れたが、振り払ったりはしてこなかった。
「話を戻すけど、蓮華に任せて大丈夫かしら?」
「……区画警備隊の案件は大丈夫だろう。むしろ此処まで煮詰められているからこそ信頼できる。
軍行動を起こす事になってもこうして街を守ってくれれば、城を無理やり取られる事も無く、洛陽のような大火には沈まない。まあ、今回は守る側の方が地理的にも有利だから、残してきた皆でも大丈夫よ」
「ふふっ、冥琳のお墨付きなら問題ないね♪」
「ああ……そうだな」
褒めて見ても返ってくるのは疲れたような声音。何を思ってか、私にはまるで分からない。
最近の彼女の心は何処か遠くを向いている。私の為に……は分かるのだが、他にも誰かに捉われている気がしてならない。
劉表だろう、と先程までは思っていたが、今の話しぶりからすると違う気がする。目の前に迫る敵に、彼女は余り憎しみを向けていないのだ。
母の死よりも、私との乱世を優先している。もっと息を抜くべきなのに、蓮華と同じく潰されないよう必死になっているのが私まで伝わってくる。まるで……ナニカから逃げるように。
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