喰らい乱して昇り行く
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「最期だからお前らに預けよう。オレの真名は……龍飛。龍が飛ぶから龍飛だ。口には出すな、才の無い奴に預けるのはお前らが最初で最後だ。誇れ」
何度も頷く兵士達は、声を出す事は無く。
年月を重ねても美しい彼女に見惚れながら、震える吐息を吐いていた。
くるり、と背を向けた劉表の顔は、いつも通りの悪辣な笑みを浮かべていた。
「キヒ……さあ、悪いこと、しようぜ♪」
手を広げて、大空を見上げた彼女の言葉は宙に消える。
胸に熱さが灯った。
初めてこんなに熱いと思った。
これが皆の感じてきたモノなのだと思えば、不思議と愛おしく感じた。
口の端から血が流れ落ちる。
せっかく甘いモノを食べたと言うのに、鉄の味に変わってしまった。それだけが唯一、彼女が不快に感じたモノだった。
「けふっ……世界は、変わる……オレはいらねー……きっとこの、甘い世界には、生まれちゃいけなかった……でも……」
彼女の胸に、白刃が突き出ていた。
後ろでは……涙を零しながら兵士が彼女に短剣を突き立てていた。
死装束の如き白では無く、彼女が纏っているのは黒のドレス。悪には黒こそ似合うだろうと、気に入っていた色だった
吐き出した赤は、彼女の瞳の色と同じモノ。
崩れ落ちる膝。徐々に消えていく熱いナニカ。突き立った短剣が邪魔で、真っ直ぐに空を見る事は叶わなかった。
「……キヒっ……あー……楽しかった」
暗闇の中で一人、彼女は地に落ちる。星々がよく見えた。晴れやかな表情からは……何も読み取る事が出来ない。
一人の兵士は首筋を切り裂かれて倒れ、もう一人は心臓に短剣を突き刺して倒れ、誰も動く者は居なくなった。
そうして悪の龍は、掻き乱した世を想いながら……孤独に、静かに息を引き取った。
都である洛陽にて、一つの報せが駆け巡る。
劉表が何者かに暗殺された。
その報せを聞いて、まず疑われるのは孫呉の二人。
華琳は劉表を亡き者にした者が誰かを調べる事に時を奪われ、孫呉の二人は疑いが晴れるまでの間、軟禁されることとなった。
掻き乱すだけ掻き乱して居なくなった悪龍が何を思っていたのかは、彼女達も知らない。ただ、これからの乱世にて、彼女の残した幾多の策があるとは知っている。
受け継いだのは一人。龍が残した不可測。
利用出来るモノは一人。地にて機を見る竜。
旧き龍は……若き龍を無理やりに乱世へと引き摺り込み、漢を勝利に導く手札を用意したのだった。
華琳は一人、憂いに心を沈めながらも思考を積み上げて行き……一つだけ、指示を出した。遠く、遠く、彼の想いが始まった大地へ。五百の麒麟を都に集めろ……ただそれだけの指示を。
そうこうしている内に、“
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