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乱世の確率事象改変
喰らい乱して昇り行く
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を返した。
 劉表はギリギリと歯を噛みしめるそぶりをしながら、ゆったりと、されども優雅に頭を下げた。

「……申し訳ありません、陛下」
「……そなたの忠義は理解しておる」

 それだけの言葉を発して劉協は口を閉ざすも、蒼天の瞳は揺れていた。
 劉表は漢に仕えている。腹に刃を持っていようとも、どれほど外部を悪辣に掻き乱そうとも、漢の終焉が見えていようとも、結局は帝の味方。其処だけは変わらない事実である。
 劉表は誰も見ようとせず、颯爽と身を翻して部屋を出て行く。最後に一寸だけ、華琳に向けてほんの少し舌を見せた。悪戯好きな笑みにも思えるその顔は、満たされたようにも見えていた。
 しん、と静まり返る場内にて、小さく鼻を鳴らした華琳の冷たい声が響き渡る。

「陛下、劉州牧が下がり、未だ孫家の叛意も確かめられず――」
「……洛陽は燃えたぞ」

 ぽつりと、劉協が言を零した。華琳がこのまま続けるか否かを問いかける間もなく、憂いを帯びた声が響いた。

「孫策……そなたは洛陽が燃えた時、黒麒麟と同様、民の救援に勤しみ大徳と呼ばれるようになったと聞く」

 声を発する事も出来ぬ程に、その場は痛々しい空気に包まれていた。
 故に、雪蓮が口を開く前に、劉協が少し、眉を寄せた。

「じゃがな、洛陽は燃えた。確かに燃えたのじゃ。戦は……恐ろしいの」

 それだけ話して、静寂が訪れる。
 まだ十にも満たぬ童ではあっても、直ぐに帝の衣を纏い直した劉協は、感情を欠片も表に出さず、空っぽのような蒼天の瞳で宙を見ていた。

「少し、疲れた……。曹孟徳、そなたに次の日取り決めは任せる」

 しゃなり、と立ち上がった劉協は、一歩、また一歩と歩みを進めて離れて行く。
 誰も何も言えず、その小さな身体を見送るしかなかった。
 粘りつく空気は無い。しかし……釈然としない空気だけが、皆の心に気持ち悪さを残していた。




 †




 暗がりの中に蝋燭が一つ。ゆらゆら、ゆらゆらと揺れていた。
 きっと明朝にでも何かしらの指示が届くだろう、と劉表は考え、ふっと息をついて瓶に目を落とす。
 其処には紅い実が一つだけ残されていた。てらてらと密に濡れた輝きは美しく、思わず吐息を吐き出すほど。

「ケホ……最後、か」

 震える指で摘まんで、手に取った。あーん、といつものように口を開け、小さな舌を出して受け入れようとするも

「あ……」

 ぽろり……と机に落ちてしまった。
 コロコロと転がって少し前で止まる。じ……と見つめた劉表は頬を緩めた。

「キヒ、キヒヒッ……喰えねーなんて縁起わりぃ」

 今度は落とさないように拾う。大切な宝であるかのように、そっと掌で包み込んだ。

「さて……お前ら、よく
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