喰らい乱して昇り行く
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というのに、到着するまでも書簡とにらめっこをしていた。
明日が劉表と曹操、そして帝との謁見の日になる。否、これは謁見とは名ばかりの詮議。己が無実を証明する為の場。虫の息の旧き龍が、最期に仕掛けてきた悪辣な政略。
「ねぇ冥琳」
呼びかけても返事は無し。よほど熱中しているのか、はたまた聞いていない振りか……
「冥琳ってば!」
手に持っていた書簡を取り上げると、彼女は私と視線を結んできた。口を尖らせて不足を示しても、冷たい眼差ししか帰って来ない。
一寸、目を閉じた彼女は、いつもの如くやれやれと額に手を当てて首を振る。
「……どうした?」
「どうしたもこうしたも無いわよ。明日が劉表との“戦”だって言うのに、あの子達に任せた仕事で頭悩ませなくてもいいでしょう?」
見れば書簡の題は揚州の治安回復について。
大徳の風評があろうと、袁家が敷いた重税のせいで民の疲弊が激し過ぎ、私達は建業すら内政の地盤を固められていない。
治世の仕事は結果が出るのが遅い。献策し、試行し、改善する。そうやって積み上げなければ上手く行かない。問題点は必ず出てくるし、戦の後なら尚更である。すぐさま結果が出るなら、この世はもっと楽に暮らせることだろう。最短経路で最善を手に入れるなど夢のまた夢。
蓮華は確かに成長していた。王の器が完成されたと言っていい。
あれは守る王。絆を繋いで治世を照らすモノ。心に渦巻いた雲さえ払えたら、私よりも素晴らしい王になる。
それでも……民の生活が改善されるのは、牛の歩みの如く緩やかにしか出来ない。如何に素晴らしい楼閣を作り出せるとしても、建てるにはまず大地を固め、しっかりとした足場に据えて行くしかないのだ。砂上の楼閣だけは建ててはならない。
「……別に悩んでいたわけではないぞ?」
「嘘ね」
「ふむ……何を以って嘘と言うのか、聞いてみたいモノだな」
こういう時の流し目はズルい。大人の女性ならではの妖艶さが際立ち、自分の欲が疼いてしまう。
不敵な笑みに口づけを落としてしまいたいが抑え付けるしかない。
「いつもより深く眉間に皺を寄せてたじゃない。こーんな感じで」
言いながら眉を顰めてみせる。きっと誰にも見せられないような顔になってるだろうけど、二人きりだから気にしない。
「あなたにこんな顔は似合わないわ。可愛らしい笑顔の方が似合ってるもん」
ふん、と小さく鼻を鳴らすと、彼女は堪らず吹き出した。
「くっ……くっくっ、ダメだな。私はやはりお前には勝てん」
喉を鳴らしてそんな事を言う。雰囲気が幾分か落ち着いたようで何より。こうでもしないと、彼女は何処までも張りつめ過ぎてしまう。
「あら、今更? そんなの前から分かってた事でしょうに」
「いや、再
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