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クルスニク・オーケストラ
第三楽章 泣いた白鬼
3-2小節
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ランドも。

「どうした? ずいぶん顔色が悪いが」

 どうやら少し前の時間軸の分史に飛ばされたようね。

 Dr.マティスは背後から忍び寄った男を、逆に武術で押さえつけた。分からないなりに最善の行動を取った。

「あなたたちやアルクノアが、僕を憎む気持ちは分かります。でも源霊匣は信じてください! あと一歩で実用化できるんです!」
「手加減するな。どうせリーゼ・マクシア人だ」

 ああ。絶望的に会話が噛み合ってませんわね。頭の痛いこと。一刻も早く時歪の因子(タイムファクター)を探しに行って、こんな世界とはおさらばしたいものですわ。


「では、こちらも遠慮なく」


 え?
 突然のことだった。上空から3本のナイフが降って来て、ブラートを囲んで地面に突き立った。
 その途端に、薄い緑の魔法陣が地面に光り輝いた。ブラートはそれで動きを封じられたようだった。

 これが精霊術……知識として「観た」ことがあっても、ナマは初めてですわ。

「ローエンっ!」

 Dr.マティスが歓声を上げた。

 ローエン……まさか、リーゼ・マクシア宰相のローエン・J・イルベルト閣下?
 分史世界とはいえ何故、リーゼ・マクシアの宰相閣下が、エレンピオスの、こんな寂れた町の路地裏などにいらして……


 ――ミス・ジョウが流してくださった情報。路地裏の、魔人。


「だれ?」
「一緒に旅をした仲間なんだ」
「何でも知ってる、頼りになる人だよ」
「《カナンの地》がどこにあるかも?」
「カナンの地、ですか」
「何でもお願いを叶えてくれる、ふしぎな場所!」

 ……ああ、何とも羨ましゅうございますわ、エルちゃん。誰に吹き込まれたか存じませんが、《カナンの地》にまつわる闇をご存じないなんて。

「ふん。そんな場所があるなら願いたいもんだ。リーゼ・マクシア人を皆殺しにしてくれってな!」

 拘束されているのに吠えますこと。《消してや》ったりはしません。無駄な殺生はキライです。

「素手でこんな真似できる奴らを、同じ人間だと思えるか!」

 まさにリーゼ・マクシア人のDr.マティスとレイア様が悲しげに顔を伏せられました。

 ブラートの意見は、現代のエレンピオス人にとっては正論です。幼い頃は、わたくしも、わたくしの家族もそう言っておりました。

 ですが、わたくしは知りました。この身に刻んだ《レコード》には、霊力野(ゲート)を持っていたエレンピオス人もいらしたのです。霊力野があるからといって必ずしも人外ではなかったのです。これが時代の移ろいですか。

「同感です」

 ローエン閣下が拘束陣に手をかざされた直後、陣の中が燃え上がり、ブラートの者たちが焼き尽くされた。

「ひっ…」
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