第三楽章 泣いた白鬼
3-1小節
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…Dr.マティス、申し訳ないのですが、そのう……GHSの電話帳の呼び出し方って、お分かりになりまして?」
「分かりますけど。ジゼルさん、ひょっとしてGHSが苦手?」
「お恥ずかしいのですが……」
「いいですよ。ちょっと貸してくださいね」
リーゼ・マクシア人にGHSの使い方を習うなんてとっても複雑ですわ。うう、何でよりによって今、ど忘れしちゃったのかしら。物忘れがいつものこととはいえ。わたくしの脳みそのおたんこなすっ。
電話帳に画面が切り替わったGHSを返していただく。
ちょっと離れて――柱の陰にいるエージェントに発信です。
『はい』
「ジゼルです。今から対象がドヴォールへ向かいます。ドヴォールにはエージェントを配置していて?」
『いいえ。こことヘリオボーグのみです。手配しますか』
「お願いします。面倒をかけてごめんなさいね」
『お気になさらず。仕事ですから。誰を行かせますか? ドヴォールなら、ウチの班のジャックが出身なので詳しいですが』
「まだ因子化の皮膚発症はない?」
『ありません』
「では彼を行かせてちょうだい。合流はしないので現地での判断は彼に任せると伝えて」
『了解、補佐』
「ありがとう。レイア様の監視、ご苦労様でした。帰社して報告書をまとめたら、上がってくれていいわ。リドウ室長には、わたくしがそう言ったと伝えて」
『ありがとうございます』
通話を終えてGHSを背中のホルスターに入れ直す。
ふう。この分じゃいつかGHSの使い方そのものまで忘れそうね。
「電話おわった?」
あら、エルちゃん。
「ええ。終わりましてよ。お待たせてして申し訳ありません」
「じゃあ早く行こ! みんな待ってるよ」
「はい。参りましょう」
愛想が良く見えるように笑う。
笑い方は、何をどれだけ忘れても、きっと最後まで残ってる。
エルちゃんの後ろを付いていってルドガー君たちと合流する。
「お待たせしました。参りましょう」
「急かして悪い」
いえいえ。これも仕事の内ですから。
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