暁 〜小説投稿サイト〜
Magic flare(マジック・フレア)
第5話 僕タチハ死ンデシマッタ
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人で中央の席に座っていた。
「宮沢さん」
 同級生だった。女子は、固く唇を結んだまま、ゆっくり顔を上げた。
「……宮沢さん、今、もう一人誰かいなかった?」
 やはり口を開かぬまま、首を横に振る。ルネは戸惑い、言い淀んだ。仲が良かった同級生ではないが、こんな無口な、暗い人だったという記憶もない。
「宮沢さん、何してるの?」
 戸口に突っ立ったまま尋ねた。
「何か困ってるの?」
「大事なものをなくして……」
「何を?」
 答えない。
「どこでなくしたのかな」
「伊庭君と……体育館の、二階の体育準備室の前で会う約束があったから、そこかもしれない」
「体育館」
 ルネは頷いた。
「あの、宮沢さん。春の体育祭って、どうなったの」
「何言ってるの。体育祭どころじゃないでしょ? あんなことがあったのに」
「あんなことって? 僕、入院してたからわからないんだ……ねえ、僕はどうして入院していたの?」
「怪我をして――」
 言いかけたまま口をつぐんだ。
「……宮沢さん」
「体育館に行ってみたら、思い出せるんじゃない?」
 ルネは不安と不快を共に抱えて背を向けた。
 この廊下の突き当たりに、体育館の二階につながる渡り廊下もある。渡り廊下と校舎を隔てる戸も開放されていて、ほの白く明るい。
 雨が強くなっていた。
 体育館の一階の外にはあの父兄たちがいたはずなのに、どこに行ったのか、もうその声が聞こえない。
 二階の体育準備室には渡り廊下に面した窓がある。窓には格子がかかっているが、その窓が、開いていた。
 格子越しに中を覗いて、ルネは動揺し、声をなくした。
 剣道の防具が並ぶ中に、女子がうなだれて正座していた。
「宮沢さん」
 ルネは声を絞り出す。
「どうやって先に来たの? なんで」
 彼女はゆっくり、ゆっくり、白い花が開くように顔を上げ、「開かないの」と呟いた。
「開かないって?」
「閉じこめられちゃった。吉野さんたち、ひどいいたずらするな」正座したまま、「私が伊庭君と会ってるのが気に食わないんだ。ブスども」
「宮沢さん、でも、さっき視聴覚室にいたじゃない――」
「はあ? 変なこと言わないで。私ここから出られなくて困ってるんだよ?」
「――ごめん」
「鍵を持ってきてよ。吉野の体操服のポケットに入ってると思う。あいつ頭悪いからしょっちゅうそうやって忘れるんだよね。あ、3Cの教室だから」
「3年C組? なんでそんなとこに」
 答えない。ルネは格子に触れた。冷たくて、びくともしない。
「……わかったよ。待ってて」
 暗い校舎に戻った。三年の教室は四階だ。
 四階まで上がると、学校のまわりに他に高い建物がないため、教室から廊下にこぼれる光の量が増えた。
 3年C組の教室を見つけ、足を踏み入れた。
 
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