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Magic flare(マジック・フレア)
第5話 僕タチハ死ンデシマッタ
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て、開け放たれた校舎の通用口に走っていく。父兄たちは好き勝手に怒りと不平不満を撒き散らし、誰も雨具を持っておらず、結構降っていたはずなのに、誰一人濡れていない。
 クグチは一人一人の顔を順に見て、おもむろにイヤホンを切り、眼鏡を外した。
 誰もいなかった。

 ―3―

 土足で校舎にあがりこんだ途端、ドアに強風がぶつかり、勢いよく閉じた。その音が長い廊下の果てまで響きながら吸いこまれていく。
 外からの明かりは僅かだ。遠くに玄関があるので、その辺りがぼんやり白く明るい。
 歩きはじめると、廊下に並ぶ全ての部屋の戸が開け放たれていることに気付いた。やはり誰か、先生が来たのだ。そして、すぐにこの学校を避難所として使えるように、校門を開放し、全ての部屋の鍵を開けた。きっとそういうことだ。
 職員室を覗いた。
 誰の姿もなく、全ての窓が閉まって暗く淀んでいる。
 その中に一つ動く物があった。
 ルネは目を凝らした。机の列の中央辺りで、赤い紙の束が風もないのに勝手にめくれて浮き上がり、床に落ちて渦を巻き始めた。ルネは恐怖を感じ、走って職員室から離れた。
 一階の廊下は玄関で一旦途切れる。まっすぐ進めば階段、左を向けば校庭、右を向けば中庭がある。
 開け放たれたまま固定されたガラス戸から校庭に出た。
 足許に、紙でできた花が吹き寄せられていた。雨に打たれ、汚れている。
 春の体育祭の看板を飾っていた造花だ。ルネにはこの花を手作りした記憶があった。紙の花はどれも乱暴にむしり取られたように、半分ちぎれている。そこに誰かの怒りを感じた。グラウンドは水たまりで海のようだ。教室の窓から下がっていた垂れ幕もない。春の体育祭を匂わせる気配はどこにもなかった。
 体育祭はもう終わってしまったのだろうか。引きちぎられた造花を見下ろして、ルネは記憶が戻らぬかと、意識を造花に集中させた。
 戻らなかった。体育祭がどうだったかも、何故入院することになったかも思い出せない。
 がさりと廊下で音がした。
 廊下に戻ると、職員室から出てきた赤く光る紙が、がさがさ床を這い、自ら人の形になって、歩き始めた。
 ルネは目を凝らした。紙に字が書かれている。『亡』と読めた。
 あんな存在が実在するわけがない。あれは、おかしくなった電磁体だ。ルネは自分の目に指を入れて、レンズを取り外そうとした。指は眼球をつるつる滑った。レンズの外し方を思い出せない。紙の人が近付いてくる。ルネは耐えきれず、背を向けて二階に逃げた。
 小声で言い争う声が聞こえた。視聴覚室だ。その後ろ側の戸のガラス窓には黒い布がかかっている。教室の前側の扉は開いていた。争っているのは二人、男と女だ。よく聞こえないが、問い詰めるような男の声と、反論する調子の女の声。
 視聴覚室を覗いた。
 女子が一
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