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Magic flare(マジック・フレア)
第5話 僕タチハ死ンデシマッタ
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あるいはあの夜の炎の中に。
「休みます」
 クグチは一礼し、部屋を出た。
 雨は小降りになっていた。
 出たところの道を、向こうから、人が歩いてくる。
 クグチは眼鏡を外し、目をこすった。それからもう一度眼鏡をかけた。
 少年だ。

 クグチが目の前に立つと、少年は身を強張らせて立ち止まり、ぎこちなく笑顔を作って一礼した。
「よかった。誰もいないかと思ってました」
「市民はみんな避難してる」
「やっぱり……僕、逃げ遅れてしまったのかな」
 少年が一歩踏み出した。
「ACJの人ですよね。父がここで働いてるんです」
「へえ。君のお父さんの名は?」
「向坂ゴエイです」
 心臓が強く脈打ち、目を見開いた。クグチは冷静さを取り戻すまで黙った。
「……あの」
「君の名前は」
「向坂ルネです」
「どこに行くところだったんだ?」
「学校に」
 ルネがまくし立てる。
「僕、入院してたんです。起きたらこんなことになっていて、誰もいなくて、何が起きたのかわからなくて、それで学校に行ったら何かわかるかもって」
「何故、入院していたんだ?」
「……わからないんです。記憶がなくて」
「どこの学校なんだ?」
 ルネによれば、壊滅した地区にほど近い、今では無人になっている地区に建つ高校だという。
 二人は並んで歩いた。クグチはルネに、〈あさひ〉打ち上げの祝祭の夜に、Q国からのミサイルが撃ちこまれたのだと説明した。驚いたことに、ルネは〈あさひ〉のことさえ知らなかった。
「太陽活動の動向は、どの国にとっても無視できない情報だ。その分野において日本が先んじることで不都合がある国も存在する。Q国は前々から〈あさひ〉打ち上げが実行されたらそれを撃ち落とすと声明を出していた。恐らく狙いがそれて、巻き添えを」
「最初から狙ったに決まってます。Q国の奴らが考えることなんて」
「狙ったのなら道東居住区を直撃していただろう。そうであったら俺も生きていない。いずれにしろミサイルはQ国の狙いとは異なる場所に落ちた。磁気嵐の影響か、単に技術力の問題か」
 そのあたりがどうなのか、本州からのニュースは何も届いていなかった。暗い気持ちを抱えてルネと共に歩き続けた。
 大通りから外れた住宅地に、その高校はあった。周囲は焼け野原に近い。グラウンドの脇に延びる道をたどって校舎に向かう。
 ルネが、あっ、と声をあげて足を止めた。校舎と繋がった二階建ての体育館の軒下に、人々が一かたまりに集まっていた。
 生徒ではない。いいや、生徒らしき少年少女が数人混じっているが、あとは父兄と思しき大人が十人ほど。
 駆け寄ると、眉を吊り上げた中年女が早速口を開いた。
「あなたここの生徒?」
 ルネが頷いた。「ふぅん」女は神経質そうに腕時計を見、吐き捨てた。
「生徒た
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