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Magic flare(マジック・フレア)
第5話 僕タチハ死ンデシマッタ
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ムが消え、スカイパネルも見当たらない。街路を彩るACJ社の様々な演出も、今日はない。目の前には左右に延びる一本の道、そして、黒く黴の生えた亀裂が走る建物が並ぶ、向かいの商店街。放置されたアイスクリーム売りの屋台。
 初めて見る本物の雨が、都市を叩いていた。

 ―2―

 ドーム崩壊後、居住区とその外側はテープと縄と簡易ゲートで区切られた。クグチが張り紙をして回っているのは居住区の外、そう遠くない過去に飛行機から見下ろした貧民街である。もう何枚も手書きしたせいで、張り紙の文面は完全に覚えていた。
『伊藤ケイタさんを探しています。お心当たりの方は中央掲示板にてお知らせください。明日宮』
 張り紙を守るビニールが早速雨をはじき、細い滝を作る。クグチは笑いたくなった。伊藤ケイタ。一体この日本に何千人、何万人の伊藤ケイタがいるというのだ? 無理に笑顔を作ってみた。顔の筋肉が痛い。すぐ無表情に戻り、張り紙に背を向けた。
 簡易ゲートまで戻り、ボックスの中の警察官に無言でACJの社員証を見せた。土気色の顔をした警察官は頷き、ボックスから出ることなくゲートを操作し、開けた。ここはまだ被害が軽微な地区だ。人も車も消えた道を十分ほど歩くと、市民会館が近付いてくる。避難場所だ。その外を、傘もレインコートもなしに、何をするでもなく市民たちが立って集まっている。
 その内の一人がクグチを凝視しながら足許の瓦礫を拾い上げたので、立ち止まって身構えた。
「よせよ、あれはACJの人間だ」
 別の市民が近付いて、瓦礫を持つ男に言った。男は瓦礫を捨てた。
「火事場泥棒にゃ、気をつけにゃならんからな」
 通り過ぎる時、話しかけるわけでもなく、誰かが言った。
「残った場所まで荒らされちゃたまんねぇからな。都市の外のゴミ食いどもによ」
 透明のレインコートに全身を蒸されながらも、背筋に冷たいものを感じた。守護天使の目をなくした市民たちが本性を表しはじめている。抑圧され、存在しないものとして扱われてきた暗い感情が噴出しようとしている。
 角を曲がってから、そっと振り向いた。誰もついて来ていなかった。身を守る方法を得なくてはいけないと、クグチは思った。
 自転車置き場に戻り、鍵を外す。汗をかきながら漕ぎ続け、一時間近くもかけてACJ道東支社に帰りついた。支社の建物は一部崩れたり火に煽られたりしたものの、崩壊は免れていた。あの夜の火災は奇跡的にも、ACJ支社の裏の地区で食い止められていた。それより先は壊滅状態になっている。
 十三班の警備員詰所に戻った。岸本にマキメ、島や、他の同僚たちもいる。一緒になったことのない準夜勤、夜勤チームのメンバーの顔もある。クグチは職場や同僚に思い入れを持ったことはなく、むしろ疎んでいる。それでもやはり、この状況では群れていることに安堵を
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