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Magic flare(マジック・フレア)
第5話 僕タチハ死ンデシマッタ
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だ、家にあるのと同じやつのほうがルネが落ち着くと思って!」
「お父さん、やめてよ。お母さんが死んじゃうよ」
 殺戮されたパンジーの中で、ゴエイが涙で汚れた顔に、いつもと同じ意味のない笑顔を浮かべて立ち上がった。
「大丈夫。お父さんは幽霊を作れるんだ」
 ルネは父を刺激しないよう引き攣った笑みで応えた。
「お母さんの幽霊を作るの?」
 風がパンジーの残骸を舞い上げる。風鈴が怖い。死者の声が怖い。
「お父さん、風鈴をとって」
 ゴエイは立ち尽くしたままだ。
「お父さん、ねえ。風鈴をとってよ。怖いよ」
「ルネ――」
 生前の髭の剃り跡や、加齢によって開いた毛穴から、ぱっと小さなパンジーが咲いた。目の下に。ほくろのようだ。すると口の横に、次に喉仏に、次に鼻に、次に眉に、毛穴を押し広げて赤や黄や白のデイジー、サクラソウ、カランコエが咲いて、もう地肌が見えない。
「――ルネエエエエエエエエエエエエエェ!」
 開いた唇、舌、歯茎、歯からサギソウ、ベゴニア、ペチュニア、スミレ、父が花に食われていく。
「お父さん、お父さんぁあああお父さんぁおまえをおおおおおおおぉ!」
 死者の目から涙、それは花を濡らし、眼球を突き破ってカンパニュラ、瞼をめくり上げるようにその他もろもろ花花花、草草草。
「許してくれええええええええぇ!!」

 ルネは頭から布団をかぶる。
 眠ってしまった。目を覚ます。ひどく薄暗い。
 どれほど眠っていたのかわからない。そしてここが本物の病室であることに、ルネは驚愕し怯えた。
 枕もとに色紙が飾られていた。手を伸ばす。
『1年B組のみんなより』
 中心に円があり、円の中にそう書かれていた。寄せ書きだった。『向坂君へ 早く目が覚めて元気になってね』『また一緒に遊ぼうぜ』メッセージに目を走らせ、自分はこの病院に入院しているのだと知った。理由はわからない。学校のことは思い出せる。寄せ書きに記された同級生の名前と顔も思い出せる。ルネは頭を抱えて、記憶が戻るのを待った。
「そうだ」
 春の体育祭の準備があった。準備をしていた記憶はあるが、体育祭が行われた記憶はない。そして自分は体育祭の実行委員だった。つまり、体育祭の実行委員に選ばれてから体育祭が行われるまでの間の記憶が失われていることになる。
 ルネは足をベッドから下ろし、スリッパを履いた。体は問題なく動く。特に痛むところもない。
 廊下に出た。真っ暗だ。非常灯が光っている。誰にも会わなかった。開きっぱなしの病室を覗いた。全ての窓にカーテンがかかり、ベッドが乱れ、人がいた気配はするけれど、人の姿はない。ナースステーションを覗いた。働いている人も見えない。
 一階に下りた。
 非常灯を頼りに病院玄関を出て、ルネは初めて外を見た。
 都市が、壊れていた。
 ドー
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