暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
先を見るしか叶わぬ龍に
[5/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
う? 野で才を持て余している武人と同じく、あの男は求められたから劉備軍に所属していただけ。あの軍だからこそ、それが許される」

 与える情報は一つだけ。桃香の所に秋斗が所属していた理由の切片。
 この話に利は無い、と判断した。

「武力にしても在り方にしても、存在が異質だからと言って御使いと断定するには及ばない。噂程度を真に受けるなら、劉備すら御使いと呼んでもいいくらいなのだけれど?」

 切り返す刃には皮肉を込めて。

 彼女達からすれば桃香も異質に過ぎるのだ。
 武力無く、知略も飛び抜けているわけでは無い乙女が、一軍を率いて成り上がる。血筋は王朝のモノだとしても、出自は村娘に過ぎないというのに。
 願いのカタチは声高らかに、誰もが知っている通りに『何を於いても民の為』。隠された事実の裏表は為政者達にしか分からず、民の目に映る姿はたった一つ。
 それは余りに……民が願う“天の御使い”と呼ぶ姿に相応しくなかろうか。

 眉を顰めて手を額にやった劉表はくつくつと喉を鳴らした。

「あー、そりゃそうだ。徐晃と劉備ってのは逆でありながら同じだったっけか。異才の男と非才の女でありながら、どっちも民から願われる姿に相違ない。だからあいつらは“大徳”って呼ばれてやがる」
「ふふ、願いの受け手と言う意味では同じなのでしょう。英雄は誰かがそう呼ぶから英雄になれる。御使いも同じく、誰かが謳うからそうなれるのではなくて?」

 論のすり替えだ、と思いつつも劉表はこれ以上突っ込む気は無いようで、震える手でお茶を取って啜る。

――崩すには足りないか……いや、それよりも“論をずらすほど知られたくない”ってだけで十分だ。お前は徐晃を手元に置きたいってこったな。

 収穫はそれだけだったが、劉表は満足だった。

「キヒ、まあ同意してやる。しっかし英雄ってのは生贄みたいなもんだ。あなたは素晴らしい、あなたに着いて行きます……んなもん裏返したら『失敗したら許しません』ってのと同じだってのに」

 期待の鎖は、謳われる名が大きければ大きい程に冷たく重い。それをよく知る劉表は呆れからかうんざりした表情に変わる。
 華琳は小さく鼻を鳴らして、

「それでも失敗を次に生かし、立ち上がり続けるのもまた英雄でしょう。例えどれだけのモノから期待を向けられようと、罵られようと、蔑まれようと、結果としてナニカを為すからこそ、そう呼ばれる」

 自分の価値観で自身の敵対者たるモノをそう評した。
 劉表は片眉を訝しげに吊り上げて見つめて来る。疑念がはっきり見て取れるその瞳に、華琳も眉を寄せる。

「なに?」
「いや……お前は……」

 言葉を紡ごうとするも、途中で何かに気付いたかのように劉表は口を閉ざした。
 宙に浮いた返答は気になる
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ