第三十五話 決意
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アベルは父の(ものであろう)日記を読み始めた。最初は特に変哲もない、船旅についての様子が書かれていた。少しページをめくるがやはり注目するほどの内容があるわけではない。読むのをやめるかと考えたが、そのまま読み続けた。
しばらく読んでいたアベルの目に入った内容があった。
『5月4日 晴れ
今日アベルが起きた時に、グランバニアの事を話していた。アベルの話から察するに、アベルが生まれた頃だった。
生まれたばかりだというのに覚えているとは、人間の記憶は私が思っているよりずっと優れている。
私はアベルに夢でも見たのだろうと言った。まだ話すわけにはいかない。アベルはまだ幼すぎる』
そのページをしばらく見続け、アベルはまたページをめくった。次に目に入った内容はこれだった。
『5月10日 晴れ
アベルがおばけ退治をしたという話を聞いた。
アベルに聞いたら、いじめられている子猫を助けるためにビアンカちゃんと二人でレヌール城へお化け退治に行ったとの事だった。
夜遅くに魔物がたむろしている城に、子供二人で行くとはかなり危険だが無事に戻ってくるとは。アベルだったら王家の試練も乗り越えることができるだろう。
マーサ。お前の子は逞しく、そして優しく育っている。
ちなみに子猫はアベルが面倒をみるようになった。ゲレゲレという名前だ。ビアンカちゃんが名づけたそうだ。ビアンカちゃんはいいネーミングセンスをしているな』
更に読み進め、三度目に目に入った内容があった。
『5月15日 晴れ しかしやや寒い
私は長年の旅で見つけた天空の剣と、手紙について考えた。
あの手紙にはマーサが不思議な力をもつばかり、魔物にさらわれたと書いたが私自身のことは書いていない。
今日出会った謎の青年に「アベルはあなたの事をとても尊敬している」と言われた。
初対面の他人であるはずだが、どこか私が見知っている雰囲気があった。だからあの青年が言ったことが嘘だとは思えなかった。
アベルは私を尊敬している。しかし、私は本当に息子に尊敬されるべき人物なのか?
あの手紙には、私が死んでも挫けず勇者と共にマーサを助け出してほしいとは書いた。だが、私が死んだら誰を頼ればいいのか。それを書いてはいない。
だがまだ教えるわけにはいかない。アベルに下手に希望を持たせてはいけない。下手な希望は深い絶望になりうる。
我が子にそんな思いをさせたくはない。我が子に秘密を抱いて生きているのは心苦しい。
だが運命というものが本当にあるはずならきっとアベルはグランバニアに辿り着くはずだ。
その時までは……』
日記はここで終わっていた。
しかし十分だった。
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