第3話 廃庭園ノ少女
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な髪の薄い男が、針の刺さった腰に手を当ててうずくまり、「痛い、痛い」と訴えた。
「ACJ道東支社が独自に定める利用規約に基き、電磁体利用サービス永久停止を強制執行した」
道東支社が独自に定める利用規約? ACJの利用規約第五章第二十一条じゃないのか? クグチは困惑を鎮めるために軽く頭を振った。岸本が男の首ねっこを掴んで引きずり起こす。
「電磁体保護法が施行される前でよかったな。もう少し遅かったらあんた、ブタ箱行きだったぜ」
そして階段の下に突き飛ばした。
「星薗ォ! それから沢下! そいつを外の奴らに渡しとけ!」
班員が二人、落ちてきた男を連れて一時離脱した。
クグチには彼の何が悪いのか、彼が何をしたのかさえわからない。岸本たちはさっさと階段を駆け上っていく。
後を追うクグチは、階段室の出口が見えたところで、何かに後ろから引っ張られた。
銃のストラップが踊り場で手すりに引っかかっている。
班員たちの背が階段室の出口に消えていく。
「あっ、ちょっと」
クグチはストラップを手すりの彫刻からほどいた。
「ちょっと、待ってください――」
後を追って走り、階段室から二階の廊下に出る。
仲間たちの足音が遠くで響いている。
足を一歩踏み出したその瞬間、クグチは心変わりを起こした。
何故自分はここにいるのかと、ふと思った。
二階の廊下は荒らされておらず、窓が大きく、明るい光が燦々と差している。そのせいか、埃っぽいのに整然とした、きれいな場所に見える。
仲間たちの足音はもう聞こえない。
クグチは光の中で呆然と立ち、何をしていたか思い出そうとした。
そうだ。仕事だ。仕事って何の。特殊警備員の仕事? どうも違うらしい。
ここに来るまで誰も本当のことを言わなかったのに、真面目に働くことだけは、しっかり要求されている。
「……馬鹿馬鹿しい」
思わず呟くと、続けて溜め息もこぼれた。
クグチはやる気をなくして窓に寄った。眼鏡を取る。ドーム越しだが本物の午前の光が四角い空間にまっすぐ降りている。
回廊に一か所、中庭に下りるための短い階段があった。その階段の前のガラス扉が開け放たれている。
中庭の土に足跡が刻まれていた。
引き返し、階段室を下りた。
優しい陽気がめいっぱい中庭と回廊を満たしている。
六階で何事かが起きているはずだが、そんな気配は何も感じられない。
開け放たれたガラス扉の前に立つと、廊下に土くれがこぼれていた。土くれは南棟に向かって進み、消える。
南棟と西棟の間には、別の廊下が伸びていた。壁も床も、エントランスと同じ模造大理石だ。
そちらに進むと、やがて廊下はガラス張りになる。
熱がこもる廊下は、右に折れ、左に折れ、外には枯れた木と逞しい雑草ばかり見える。
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