第3話 廃庭園ノ少女
[8/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
いている。僅かに恐怖の方が勝っている。青ざめていくのが自分でもわかる。岸本のイヤホンからスカイパネルの声が漏れている。
市民の皆様に――〈みらい〉応援キャンペーン――にご参加いただいた方には――特典として――幸福指数を――皆様にご一考いただきたく――真の国益を――ブレーキがかかる。思考が戻る。現場に着いたのだ。身についた習慣で、体は自動的に車を飛び下りる。心がついて来なくても。
市街から遠い、荒れ寂れた区画に、そのビルはあった。人けはない。何階建てだろう……二十……二十五……「ついて来い」岸本が命じる。「ついて来なければ宿舎から放り出す」。先に出動し、外塀にひっそり身を隠している出動車両と班員たちのもとへ、岸本は大股で歩きだした。
「仕事をする気がないなら南紀に帰るんだな」
さっと顔に血が上るのを感じた。
「申し訳ない。ほんとに。いきなりこんなことになって」
マキメが後ろから肩に触れ、岸本に聞こえないように呟いた。
「君は後ろからついて来るだけでいい。何もするな」
島とマキメの後ろについて、岸本や班員と合流した。塀に身を潜め、小声でやりとりしている。
と、眼鏡の内側に簡素な地図が投影された。
「ここで間違いありません。二階までは左側の回廊突き当りの階段室で行けます。その後北棟の廊下を端から端まで走ると、七階まで通じる別の階段室があります。そのルートで行きましょう。外の非常階段を使うと窓から発見される恐れがあります」
ロの字形の建物の北棟。六階奥。そう文字が読める。一つの部屋に星印がつき、点滅している。マキメが肩越しに教える。
「この部屋にターゲットがいる。行くよ」
「ターゲットって。サービス強制停止対象者じゃないんですか」
「もうそういう規模の話じゃないんだ。とにかく今は詳しい状況説明をしてる場合じゃない」
マキメの声も苛立ちを含み始めていた。
「ただの利用者じゃない。ただの規約違反者でもない。悪意の人間だ。それだけ覚えときなさい」
「六班と七班が東西の裏口をおさえてる。相手はまだこちらの動きに気付いてない。正面から行くぞ。いいな」
はい、と班員たちの返事。
赤錆びたアーチ型の鉄の門扉が開け放たれた。破壊されたガラスの自動扉に、岸本が真っ先に走りこむ。
もとは何かの会社だったらしい。模造大理石のエントランスは、投げこまれた石と砕け散った自動扉、食べ物の包み紙で汚されている。誰もいない受付の向こうは売店。食堂。
中庭と回廊。
その先で、階段に駆けこむ人の影が見えた。
岸本が階段の下からその人影を撃った。銃声はない。ぽん、と間の抜けた音のあと、うわずった叫び声が聞こえてきた。
痛みはさほどないと言ったが、撃ちだされ、相手の腰に刺さった太い針を見るとそうは思えない。
どこにでもいそう
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ