第3話 廃庭園ノ少女
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たのかと思ってた」
「試験運用?」
「朝になったら岸本さんか万乗さんから説明があると思うので……今は寝た方がいいと思いますよ」
明らかに気休めとわかる笑顔で島は言った。
「ここも慣れれば居心地悪くないですよ。冬は本当に暗いですけどね。ドームに雪が積もって。これから夏だからいいけど」
クグチは気を取り直して、枕を抱え直した。
「ありがとうございます。もう寝ます」
「はい。また今日の夜、歓迎会やりますんで。それじゃ」
島が去ってから、クグチは戸を閉め、内鍵をかけた。
矢印がまだ浮いていて、ひきだしを指している。
クグチは底板を外した。
菓子の箱が隠れていた。電磁情報シールが貼られている。矢印が形を変え、文字になる。
〈present for you!!〉
先ほどの島には、矢印が見えている様子はなかった。これが自分だけに見えているとしたら……どういうことだろう。クグチは考え、思いつく。眼鏡の個体識別チップだ。南紀社製のロットに反応するよう印づけられたということなら。でも誰が。
文字が砕けた。菓子箱を手に取り、蓋を開けた。
女神を象ったガラスのトロフィーが後ろ向きに入っていた。
土台には、何世代も昔のカード型のメモリーデバイスを保管するスペースがある。カードが刺さったままだ。
トロフィーを持ち上げた。土台の表側に記された文字を見て、顔がさっと熱くなり、息が止まった。
〈第三十七回全日本電脳競技会 個人部門優勝記念 道東工科大学 明日宮エイジ〉
懐かしい名だった。
明日宮エイジはクグチの実の父親だ。
誰かがこれをクグチにわかるように隠した。
最初の衝撃が去り、動悸が静まってから、クグチは平静を装ってトロフィーを箱に戻し、隠した。
強羅木は、ここに父親の友人がいると言っていた。向坂という名だったと、クグチは思い出す。
いや、その男であるなら、直接手渡しすればいいだろう。近い将来必ず会うことになるのだから。
誰であるにしろ、メッセージは消えた。仕込んだ人間には、クグチが父の遺品を手に入れたことは確実にわかる。
―2―
クグチは時間ぎりぎりまで寝て、のんびり起きた。寝て起きた時には二重底のことなどほとんど忘れかけている。起き上がり、ひきだしを開けてみた。底は二重底のまま、菓子箱は隠されたままだった。悪い冗談のように思う。
食堂は寮の二階の奥にある。遅めに行ったせいか、既に半分は空席だった。カウンターの端のトレイを取り、洋風の朝食を提供されるがまま受け取って、クグチははたと止まった。どのテーブルに座ればいいかわからなかったのだ。
「よう、新入りか」
誰かが声をかけてきた。後ろに並んで朝食を受け取っていた中年の男だ。同じ特殊警備員の制服を着ている。男は人のいい
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