想い育てよ秋の蘭
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支配する絶対的なモノにならなければならない。それこそが“敬愛する彼女と同じく”誰かを守る事に繋がるのだ。
「迷わない、怖がらない、逃げない、躊躇わないっ! ボクは春蘭様みたいになるんだからっ……ううんっ……いつか越える! 目標なんだっ!」
声と同時、鎖を回して一凪。横撃は兵を弾き飛ばし、多くの敵を巻き込んだ。今までに無い一撃は重さから来る音が違う。飛ばした方向は紅揚羽に向けて。距離は足りなかったが、一騎打ちを邪魔する行いにも見えるソレは、敵の意識を数瞬だけ引きつけた。
一人でも多く自分に引きつける為に思考を回す……までも無く、彼女は本能の赴くまま、叫びを上げた。
「ボクの名はっ……曹孟徳親衛隊が双璧、許緒! 逃がしてなんかやんないからっ! 身体が小さいからって舐めるなよ!」
空気が変わる。
口上と言うには幼かったが、それでも僅かに変えたのだ。将のように名乗りを上げて、数十人かの張コウ隊の意識を、気にせずともよいモノから倒すべきモノへと。
幾多の死兵の瞳を向けられても、もう動じる事は無かった。これから向けられる凶刃と戦うのは、一人では無かったからか……それとも、傷だらけになっても死を恐れずに向かい行く、張コウ隊とは別種の笑みを浮かべる彼らを知っていたからか。
後ろで兵士達は矢を射ながら、彼女を思って微笑みを浮かべていた。背に宿る闘気が、自分達の将が大切にしている覇王の大剣に何処か似ていると感じたから。
そうして少女は人知れず、武の指標への階段を一段上り行く。
†
「ふむ……秋蘭を張コウが縛り付けて、凪と沙和を乱戦のごたごたで討ち取る心算、ですか」
一段高い所から戦場を見渡す稟は独りごちる。
主も居ない。共に読み解く友も同僚もいない。華琳の指示が全く無い状態で軍を掌握するのは、彼女にとってこれが初めて。徐州では孫策軍の軍師も居た為、一人きりで戦場を仕切るのも初めて。
元より戦は徐州でしか経験がない。袁紹軍、孫策軍、袁術軍と多種多様な敵とぶつかりはしたが、それでも敵軍師田豊に比べれば、余りに経験として積み上げられた実力が薄い。
別段気にしていないような素振りを見せているが、彼女は内心で焦っていた。
――弱卒だと油断した所を真正面から食い破る。それも軍師の思惑が介入しきれないように乱戦にもつれ込ませる事によって……これが田豊ですか。桂花が危険視するのも分かります。既存の兵法をまるで無視しているのに、心理掌握で戦場の有利をもぎ取る事に長けている。
既存の兵法が通用しないド素人の戦は何が起こるか分からない。そのくせ、後背では虎視眈々と部隊を控えさせて時機を伺ってもいる。
限定された将の数と兵数の利があってこそ出来る戦法。つまり、この様相はこの場
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