想い育てよ秋の蘭
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部隊と非常に相性が良い。
「でぇぇぇいっ!」
気合一発。掛け声と共に放たれた鉄球は纏まって矢を防ぐ兵士達を粉砕した。
血が弾ける。肉が潰れる嫌な音が、その武器の威力を物語っていた。
纏まれば季衣が、ばらければ夏侯淵隊が、そうしてこの戦場の優位をもぎ取りに行く。季衣の身体が一つなだけに、どちらも数を減らしてしまうのは当然ではあるが、張コウ隊の方が被害は甚大であった。
されども、季衣の背には寒気が走っていた。
一人死のうが二人死のうが、矢に射られようが剣で切り裂かれようが殺しに向かう敵兵。ぎらぎらと輝く瞳はまるでケモノそのモノ。否、ケモノよりも恐ろしい何か。武将の力に恐れず突き進んで、死に怯えずに敵兵に向かって行く狂気は、心優しい季衣が直視するには恐ろしかった。
自分に近付いてくる兵は居なかった。張コウ隊は季衣を最初から相手にしていない。一人でも多く兵士を殺す。それだけの為に動いていた。
接敵を許してしまい、腰から抜いた剣を突き出した夏侯淵隊の兵士は、ずぶり、と敵の身体に鉄が突き刺さる感触を受ける中で、時間がゆっくりと進む感覚に襲われる。
目に入ったのは笑みだった。不敵で、残忍で、残酷な笑みだった。
ズブズブ、ズブズブと進んでくるソレは、血を口の端から垂らしながら剣を振るってきた。それがその兵士の最期に見た光景。
あちこちで、近付かれた曹操軍の兵士達は死んでいく。ばらけていると言っても安全な場所などありはしない。
槍を投げられる事もあった、剣を投げられる事もあった、地に伏した死体を抱きかかえ盾にして突っ込んでくるモノも居た。夏侯淵隊の弓や弩を拾って射撃してくるモノも居た。
使えるモノを全て使う血みどろの戦は、張コウ隊の本分と言っていい。徐晃隊のような連携とは全く違う。ただ純粋に、人の殺し方をその場で考えて個人個人で使ってくるのだ。
時間が経てば経つ程にそこかしこで人が死ぬ。必死になった賊程度の相手では無い。狂気持ちし兵士達の乱戦に初めて身を置いた季衣の身体に震えが起こった。鉄球を引きつけるのに少しばかりもたついて、彼女はギリと歯を噛みしめた。
――ダメ、ダメだっ! こんなんじゃボクは守れない。みんな、みんな何かの為に戦ってるんだ! 守りの御旗になれるのは、この場所ではボクなんだ!
膝に力を込めて、大地を踏みしめた。理解出来ない相手への恐怖を追いやれるように、と。
涙が出そうだった。叫び出したかった。怖くてしかたなかった。
初めから曹操軍に所属できた事は、そして華琳の親衛隊になれた事は、彼女にとってある意味不幸だったのかもしれない。
戦端の兵士達がどのように死ぬかも、混乱と狂気が支配する戦場がどれほど醜悪かも、何も知らずに戦って来たのだから。
覇王という希代の天才、大剣
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