想い育てよ秋の蘭
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の服の下は……腕の傷など話にならん程に傷だらけだ。背中なんぞはより凄まじい。深い傷が幾つかと、無数の細かい傷で埋め尽くされている。くく、あいつが戦い始めたのはお前と同時期なのに、だ」
「それって……」
「戦傷もあるだろう。しかし、あいつのは違う。
姉者と霞が驚かなかったのは……徐晃隊の戦い方を直接見ていたかららしい」
徐州で共に戦っていた彼らを思い出す。
死ぬときに必ず笑顔を浮かべる彼ら。一人でも多くを殺しに向かう彼ら。必ず十人以下で武将を抑えに向かう彼ら。
どうすればあのような戦い方が出来るのか、季衣としては疑問があった。自ら望んで死にに向かうような彼らを見て、哀しくもあった。彼女の純粋な目には、余りに凄惨な戦い方に見えていた。
まだ彼女は彼らの誇りを理解するには早い。力の足りない者達の想いを理解するにも、彼女の武力は高すぎる。
「そういえば季衣は黄巾の時にあいつらだけの訓練を見たことがなかったか。徐晃隊の練兵方法は様々らしいが、黄巾の時から変わらず繰り返されているモノがある。それが対徐晃の集団練兵。毎日毎日、抜き身の剣や槍で……あいつを殺しに掛かる無茶苦茶な練兵だ」
「に、兄ちゃんを殺しに、ですか!?」
「ああ。だからあいつの身体には“徐晃隊が付けた傷”の方が多いんだ。縦列、偃月、円陣、囲まれようとなんだろうと戦えるように、徐晃は血みどろの鍛錬を積んでいた。その証が傷だらけの身体、というわけだ。記憶を失って傷だらけの意味を知って、あいつが何を思ったかは教えてくれないが」
どんなだろうか、と想像しようとしてみるも出来ない。曹操軍に来てからはそこまで苛烈な事をしていない為に、どれだけ異質な訓練なのかも分からなかった。
秋蘭はまた、喉を鳴らした。
「徐晃隊の兵士も同じように傷だらけだろう。死兵の生き残りとはそういうモノだ。自身が傷つくのも恐れず、ただ敵を多く殺す為に前へ前へ。恐怖など感じない。
練度が違うと思うが、徐晃隊と張コウ隊が同じような輩なら、お前にとって一番戦い辛い相手となる」
真剣な眼差しは季衣に何を伝えるか。
並べた馬で、優しく頭を撫でた。
「大切なモノを守る意思は力を生むが、季衣は容易に命を捨てるなよ。徐晃隊や黒麒麟、張コウのようにだけはなってはダメだ。
お前が最期まで守り抜くモノはな、華琳様でなければならない」
「でも今は秋蘭様ですよ?」
「ふふ、次の戦場では皆、死が身近にあるだろう。だからこそお前は思い切り戦いながらも死んではならん。生き抜く事だけ頭に入れるのだ。それが私を守る事に繋がる」
「どうしてですか?」
質問は成長を促す。それを良く理解している秋蘭は、にっこりとほほ笑んだ。
誇らしげで、自信あふれるその笑みを、季衣は心の中に刻み込む。続
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