想い育てよ秋の蘭
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心配を存分に宿した目で兵士達が見ていた。皆、同じ想いなのだと真っ直ぐに伝わる。
どれだけ危うい戦いだったのか、彼らは理解していた。それでも尚、秋蘭の事を信じきって、一筋の矢で援護もしなかった彼らは……秋蘭の想いを間違わず。
ふ……と笑みが零れる。
――お前達のおかげで、私はあいつみたいにならずに済みそうだ。
「ありがとう、季衣。それにお前達も。私を信じてくれて、戦ってくれて、守ってくれて」
季衣の頭をくしゃくしゃと撫でた。誇らしげな笑みを浮かべる彼女に、良く守ってくれたと、また一つ言葉を零して。
――ああ、そうだ。私はこいつらの想いで華開く。姉者のようには出来ずとも、夏侯妙才のやり方で。
収束する戦場で、蒼髪の麗人は美しい笑みを見せた。
兵士達は、自分が付き従う彼女の想いを受け止め、幾多の安堵の吐息を零した。
覇王の蒼弓と紅揚羽の戦いは、彼らの胸に刻まれる。
大剣に劣るか……否。並ぶ事はあれど、劣る事は無し。彼女は誇り高く、たった一人で戦い切ったのだ、と。
秋蘭の心は兵のそんな噂を聞いてか、今までに無い程に満たされていた。
延津の戦いの終焉は思いの外呆気なく、張コウが顔良と合流した時点で終わりを告げた。
乱戦の様相をそのままに、袁紹軍の主力部隊は引き上げを始める。追撃をするか迷った稟ではあったが、凪、沙和共に疲労困憊にして、まだそこかしこで兵が暴れていた為に諦めた。
心の逃げ道を塞がれていた弱卒達は、本隊が退く様を見て追随する。そのまま武器を於いて降るモノも居たが、それは僅かに少数。明と夕に逆らいたくないと深層心理に刻まれた恐怖は、彼らの心を絶対的な鎖で縛りつけたのだ。
秋蘭達は次の行動に向けてそのまま延津にて待機する事になった。その兵数を、大きく減らして。
誰も将を失いはしなかったが、夏侯淵負傷の噂は広まる。されども、一騎打ちの噂からか、士気が落ちる事は無かったという。
こうして、官渡の戦いの前哨戦二つの戦の第一の幕は下りた。
†
官渡の砦。彼の部屋では膝の上に座る少女が居た。震える身体は小動物のよう。月も席を外して、今は彼と二人きり。
頭を撫でる。さらさらとした白髪が、艶やかな藍色が、指に流れた。
ぎゅう、と抱きついて不安が消えるようにと、朔夜は彼に甘えていた。
「白馬は問題ないらしいが、延津で妙才が怪我したらしい。この戦では指揮のみになる。
まあ……どちらにしろ兵が沢山死んだ事に変わりは無いか」
さらに力を込められた腕。彼はそっと背中を撫で始めた。
「真桜の報告も聞いたけど、船戦の問題点も固まりそうだ」
聞いているのかいないのか、朔夜は何も答えを返さず、只々震えていた
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