想い育てよ秋の蘭
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が。ただ悔しい。姉のようになりたかったわけでは無いが、それでも届かないのは悔しいモノだ。
自分なりに、力を出し切って戦った結果だ。普通の人々なら満足して悔いは無いと言うだろう。
けれども、秋蘭は悔いがあった。
――まだ、まだだ……まだやれるだろうっ! せめて一矢、まだ終わってない、終わらせて……たまるモノか!
諦めはしない。それだけは、華琳の元で戦うなら持ってはならない。主の許可なく命を散らせる事だけはしてはならない。
命を賭けながらも命を散らせない、その矛盾の意思が、彼女達に力を与える。轟々と燃える心力が、彼女の身体に力をみなぎらせた。痛みは、不思議と感じなかった。
秋蘭は鎌と戦うのに慣れている。その武器の特性も知っている。愛する主が、幼少の頃より愛用してきた武器だ。
敵のモノは大きいが、それでも軌道は読めるし、致命傷をどんな時に与えられるか読み取れた。
敵も片手故に、鎖は思う様に使えていない。だから、機を待つ事にした。
切り上げ……身体を捻って避けた。
横薙ぎ……伏せて躱した。
袈裟切り……跳び退いて当たらない。
目付けが出来る彼女は、無様に見えようと、狙いを定める鷹の如く鋭い眼光を明に向けていた。
幾重の刃が宙を切る。そうして、明の元には不可測の隙が齎された。
「張コウ様っ! 田豊様よりの伝令です!」
袁紹軍の伝令の大きな声が、明の意識を逸らした。
彼女の命令ならば聞かなければならない。だから明は、秋蘭から離れる他無かった。
警戒しつつも跳びのいた明は視線を秋蘭から逸らさなかったが……秋蘭は自分から同じ方向に跳んだ。
「なっ!」
春蘭なら、明のように後退はせず、叩き伏せてから聞いてやろうとしただろう。
秋蘭なら、そのまま報告を促し、目の前の敵を倒す事の方を優先しただろう。
――やはりお前は、武力が高いだけであって、武人にはなれなかった成りそこない。
「ふふっ……だからお前は武人じゃあない」
弦の音、打撃音。
二つが同時に鳴る。
折れた腕で明の柄での打撃を受け、秋蘭は地を転がった。
明の引き摺った腕には、もう一本の矢が突き刺さっていた。
体勢を立て直した秋蘭は舌打ちを一つ。腰に据えた剣を引き抜いた。
笑みが崩れた明はため息を一つ。片手で器用に、鎖を鎌に巻き始める。
これ以上を望むか望まないか。その行動だけで理解出来た。
「ご、御無事ですか?」
「そのまま報告。速くしろ」
つらつらと為された報告に目を細め、また盛大なため息を一つ。
「時間切れ。あんたを殺してもいいけど、他にやる事出来たみたい。延津の戦は終わらしてあげてもいいらしい」
「逃がすと思うか?」
「何がなんでも逃げるよ。
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