想い育てよ秋の蘭
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ばいい。
避けられないなら受けるしかない。そうなれば、何処で受ける。
「何も戦場で武器を変えるのはお前だけじゃない。こちらは矢に限りがあるのだ。使えるモノはなんでも使うさ」
血が流れていた。武器を振っては間に合わないと判断して、心臓を守るように無理矢理身体をずらしたから、明の肩には矢が突き刺さっていた。
間接の駆動に最も重要な場所が射抜かれた。弩はこれくらいの距離でも威力を発揮する。構えるだけで放てるその武器は、矢の短さからこのくらいの距離でも戦える。
矢が半分近く突き刺さり、片手を不自由そうに確認していた。
だらん……と片手を垂らして見つめてくる目は……昏い色が渦巻いていた。口にはまだ笑みを浮かべて。
「あは、痛いなぁ。まさか秋兄みたいな事出来るなんてさ」
「私が弓しか使えんわけがないだろう? こんな時代だ。武器を投げ出す事も、使えなくなる事もあるだろう。感謝しているよ、あいつには」
「武器が無くても人を殺せる。そういえば楽進も居たし、下地は出来てたってわけかー。愛用の武器持っちゃう武人ってさ、どっかしら頼っちゃうから隙があんだけど……あんたには無かったんだねー」
のんびりと言葉を零していてもまだ気は抜かない。大きく力が削げたとしても、明は片手でも鎌を振れる。開いた距離から、近付いてくるかの警戒を怠らない。
「さて、まだ戦えるとは思うが、片手でも戦うか?」
また、明の笑いが濃くなった。不安は無かった。そういう奴で、そんな笑みをいつも浮かべている、と。
「あったり前じゃん♪ この程度の傷じゃあ、あたしを止めるにはまだ足りないもん」
「なら、また踊ろうか」
「そうだ、ねっ!」
秋蘭は弩の弦を引き……明が動いた。その場で無事な方の腕を引いただけで、場所は変わらない。
気付くのが、遅れた。横に逃げただけでは、遅かった。
「あ……ぐぁっ」
鈍重な痛みが襲いかかった。自分の背後から。左の腕がメキリと音を立てていた。
「あはっ! あはははっ! なぁんで分銅を戻さなかったのか、分かんなかったのかなぁ?」
喋りながらの接敵。片手で振り被られた鎌は……命を刈り取る絶望の刃。
こちらは弩が一つだけ。片手でも撃てるが、もはや二の矢を番える事も出来ない。今しがた番えた矢が最後の武器。
相手の力は確かに下げられたが、こちらの方が危うかった。付け焼刃の体術ももう効かないであろう。
「ひひっ、楽しく踊ろうね♪」
赤を見ながら、笑う。自分の力が足りなかったと。秋蘭は笑った。
脚を動かして避け。身体を捻って掻い潜り……舞のようなその姿ではあっても、もう欲しい結果を得るには厳しい。
悔しい想いが湧いてきた。
自分では姉の横に届かなかったという事実
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