想い育てよ秋の蘭
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なし、途切れた隙間でまた二本の矢を放つ。
――後、三本。
宙を舞う武器はまだ落ちて来ない。明は気付いているのかいないのか。いないなら、向かってくるだろうと分かっていた。
手に持ち直した鎌を振り抜く事はせず、鎖だけで動きを縛りに来る明は、若干の余裕を見せて楽しげな笑みを浮かべている。
避けながらまた一つ。矢を放った。容易に鎖で弾かれるが、遅れて二本目を放つと彼女は横にズレた。
瞬間、高い金属音が鳴る。秋蘭の狙いは……明では無く、鎖。長すぎるそれを縫い留めた。
一寸だけ、明の意識がそちらに向く。その隙に上をちらと見やり、最後の矢を構えた。
引き抜かれた鎖が不可測の動きを以って襲い来るも、秋蘭の武器の一つは動体視力。避けるのに、なんら支障は無い。
――後、一本。
肉薄まで後少し。秋蘭は最後の矢を放った。
鎌で一閃。切り捨てられた。もう武器が無い。腰に据えてある護身用の剣くらい。そんなモノでは、凶刃に裂かれるだけ。真桜が強度を上げた弓なら受けられるが、それもしない。
明は笑った。矢が切れたからか、それとも嗜虐心からだけなのか。
秋蘭は器用だ。それでいて努力を怠らない。
彼女が、接近戦でなんら対抗策を持たない事があろうか。
此処二か月、武器なくとも戦えるあの男が、姉や神速と一騎打ちをしていたというのに、一つでも動きを盗まない事があろうか。動体視力に優れ、武人の素質を養ってきた彼女が。
秋蘭は笑った。
感謝かもしれない。
歓喜かもしれない。
確かに彼女は笑みを深めた。
「お前の負けだよ、張コウ」
明の視界で、秋蘭の姿がブレる。
考えるまでも無く反射的に鎌を横に薙いだ明も、武人の素質が高いのは目に見えて明らか。それでも、その位置に鎌を振ったのは間違いだった。
明は武人では無く、効率的に人を殺す方法を高めてきたから、大鎌への信頼と、攻撃範囲への信用が重なって、腰の高さより上で横に薙いだ。
だから、秋蘭が行った彼の縮地の真似事の対応としては、些か高すぎた。
「っ!」
腹に掌底を叩き込む。力は其処まで強くないが、武器を振り切った無防備な状態には、十分な威力を持っていた。
しかし、手に伝わる感触が弱すぎた。彼女が先に、思いっ切り地を蹴って飛び退いていたのだと気付く。
――凄いな、お前は。“予想通りに”。
内心で褒めて、彼女は落ちてきた武器を手に取った。
計算された時間。秋蘭の頭と器用さと視力あってこそ出来たモノ。明の着地が成る前にと……弩の引き金を引いた。
唸りを上げる矢。一つでいい。たった一つだけで良かったのだ。宙である為にしっかりとした回避行動さえ取れないなら、後退して大型武器の引き上げも不安が残るなら、急所を狙ってやれ
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