想い育てよ秋の蘭
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心を持っていた。高い忠誠心、狂信という毒は、それほどに扱い辛く御しがたい。
――季衣にはあいつらのようになるなと言ったが、私は既に落ちている。だから、お前と私は似ているのだろう、張コウ。
自分の心を把握する術も、秋蘭は持っている。冷静に、とは言っても、譲れないモノも確かにあるのだ。
夏侯妙才という女の意地は、華琳に認められ、春蘭と並び立つ事だ。
本来なら、彼女は自分を律しきれただろう。一つ増えたモノが、彼女の枷を少しばかり外していた。
安心、なのかもしれない。多分そうなのだろう。
自分の代わりに皆を纏められるあの男が仲間になったから、自分も戦場で命を賭けていいと、やっと思えたのだ。
「だから……私は今、華琳様の為に“私がしたい事”を出来るのだ」
勝ちたい、と心底から思った。
主の笑顔を思えば、力が湧いてくる。姉の誇らしげな笑顔を思えば、笑みが柔らかくなった。
迷いなど初めから無い。心さえ決めてしまえば、後はいつも通りに理合を頭で描くだけ。
立ち上がり、目を向けると、明は笑っていた。口をより引き裂いて、楽しそうに。
「楽しそうじゃん。どったの?」
抑え切れない衝動からか、自分の口も同じように裂けていた。
「いや……もう我慢しない事にしただけだ」
「へぇ、やっぱりあんたとあたしって似てるんじゃない?」
「ああ、ああ。認めよう。お前と私は似ているだろう。大切なモノが全てだから。でも違う。お前は自分が居ない」
少しだけ彼女の目が細まった。不快気な色は見えないが、空気が張りつめた気がした。
異質な戦場は秋蘭にも利を与えていた。時間があれば死体からでも矢の補充ができる。
弓に矢を番え、明に狙いを定めた。ゆらゆらと揺れる明は、隙だらけなように見えて隙が無い。
兵士は近づく事も無い。どちらも、与えられた命令に忠実であるが故に。
「……夕の為、それだけで世界は変わるからいいんだよ」
「私も華琳様の為だ。でも世界は変わらんさ。自分が変わろうとしない限り。お前の大切なモノも、変わってくれと願っているのではないか?」
「……っ」
思考誘導だと分かっていても、明は乗らざるを得ない。歯を噛みしめて心を抑え付けた。
耳を塞げばいいのに塞げない。聞き流せばいいのに聞き流せない。変わりたくない自分が居るから真に受ける。
鎌が投げられた。矢が三本宙を走った。動きは同時。回避行動も同じ。屍の山を蹴り抜いて、脚が駆ける。
分銅を投げるのが速かった。しかし慣れたモノで、秋蘭は僅かに身体を横に向けるだけで避け二本同時に矢を放つ。明が回転して視界を切った隙に……地に落ちていた一つの武器を……高く高く蹴り上げた。
引きつけられる大鎌を伏せて避け、襲い来る鎖の列を弓で器用にい
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