想い育てよ秋の蘭
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勢は倍以上を有している。負けるはずが無いという慢心は隅々にまで行き渡り、細部まで掌握しきるには実力が足りない。何より、彼女自身が袁家を深い絆で結ぼうとしてこなかったのだから当然の帰結であった。
瓦解するのは内部から。まさしく、夕が袁家を崩壊に導こうとしていたツケが、小さくとも現れた瞬間であった。
「……っ……分かった。下がっていい」
ギシリ、と歯を噛みしめる。
自分のせいではある。袁家のせいでもある。誰を怨む事も出来ない。
負けたわけでは無いが、自分の思い描いている戦絵図に黒い墨が垂らされた気がした。
黒い、黒い、一つの点。
気にしないでもいいくらい小さい、されども、これから一つ二つと増えて行くであろう。
「張コウに伝令。優先事項を夏侯淵の討ち取りから撃退に。顔良を救出後、戦場をじっくり下げる」
御意、の一言を残して一人の兵士が駆けた。
背を見つめる内に、掌が湿り気を帯びていた。
じと……と気持ち悪い汗が覆い、堪らず、夕は服の裾で拭い去る。
――船が一番の不可測。状況の判断が足りない。
誰が指示した……決まってる。軍師が思いつかない一手を放り投げてくるのは秋兄しかいない。二隻程度で、死ぬかもしれない場所に優秀な者を向かわせるのはあの人しかいない。また、あの人が邪魔をする。
胸が跳ねる。考えるだけで鼓動が高鳴る。
頬が熱かった。追い詰められる度に、覆される度に、彼女の心が疼く。
不思議な心地よさだった。軍師として最大限の力を発揮して、尚届かないこの感覚が。
「これを返したら、この戦で勝ったなら、あなたは私達のモノになる」
熱っぽい吐息を吐きながら、顔を妖艶に綻ばせながら、今はまだ我慢だ……と、彼女は掌を胸に当てる。
――私を変えてくれたから、明も変えてあげられる。
零したのは、彼女の大切に向けて。夕は明がこの戦場で死ぬと疑う事無く。
それが何よりの力だとも知っているから。
一つ目を瞑り、開いた双眸には黒の輝き。知性が巡る脳内は、不可測すら予定に組み込み始める。
「最低限の兵数被害の成果は出した。これからは機を待つのみ。最後はお前が来るだけ……曹孟徳」
†
屍、山の如し。
幾多も積み上げられた死体の小山が並んでいた。
ある者は矢が幾多も突き立ち、ある者は胴体が二つに離れ、ある者は手足が無く……風化すれば地獄の風景になるのではないか、否、此処こそが地獄であった。
「……これがお前のやり方か」
引き裂いた笑みを浮かべた秋蘭の息は荒い。
小山の死体にもたれ掛って、気配を読み解きながら気を抜く事は無い。
其処は異端者の戦場。弓の名手の秋蘭に相対する為に、明達が作り
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