想い育てよ秋の蘭
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向かい来ようとする凪と沙和を、半月に囲っていた斗詩の部隊が押し込める。体術で吹き飛ばされても、双剣で切り捨てられても、彼女を守る為に命を張っていた。
――嗚呼、私は……守られてる。私の方が強いのに。
いつも彼らは、弱々しい自分の号令について来てくれていた。
いつも彼らは、無茶苦茶な猪々子の行動の補佐に不満も漏らさず従ってくれた。
なのに、自分は……何をしている。
立ち上がり、吐息を付いた。その瞳には迷いがなかった。怖さはあるが、それでも、彼らの為にもやらなければならない。自分がやらなければ、誰かが……哀しむ。
――それだけは嫌、だもん。私は文ちゃんと姫、ちょこちゃんと田ちゃんの為だけに戦うわけじゃない。ちょこちゃんみたいに、“彼ら”を軽く見ない。その為なら……捨てよう、この誇り。私は今から、武人を捨てる。この人達も守る為に。
大槌を指し示した。冷えて行く頭と心の温度に反して、体はもう、冷たくなかった。乾いた喉から、叫びを紡ぐ。
「袁紹軍の勇者達よっ!」
甲高い彼女の声は戦場に良く響く。どうか一人でも多くの耳に入ってと、願いを込めた。
「我らは生きているっ!」
兵士の想いが何に向いているか、彼女は間違わない。
「生きよ、生きよ、生きよっ! この戦場、生を掴み取る為にこそある! 這いずろうが、のた打ち回ろうが、生きる為に戦えっ!」
指揮を投げ捨てたに等しい口上は、周りの兵が持つ無駄な思考を削ぎ落す。等しく死が降りかかる戦場で、逃げ場は無いに等しい。
ただ、後ろには逃げる場があるのだ。袁紹軍の隙間を縫えば、逃げ出せるかもしれない。弱卒たちはそう思う。
それは……あまりに浅はかな考えではなかろうか。
明は味方を殺して兵士を駆りたてた。その同類の夕が……明の抜けた場所で、思考の枷をきつく締めなおさない事など……ありはしない。
斗詩は明と夕が怖い。だから、逃げ場が無いと正しく知っている。彼女が退き時を任せると言ったからには、“明と一緒に退く”しか有り得ないのだ。
轟……と金色の軍の後背で音が上がった。
風が渦巻く。熱風が吹き荒れた。こうなる事が、斗詩には分かり切っていた。
大地が燃える。赤い壁が戦場に湧き立った。混乱と恐怖が……燃え上がった。彼女達の背には、逃げ場など……無い。
斗詩が声を上げていたのは偶然であった。間にあって良かったと心底安堵する。
不思議な事に、後は戦うだけだと、心が落ち着いていた。
驚愕に支配される少女が二人。格好の餌食と思える。もう、迷いはなかった。
「私達は生きたい。だから……あなた達は死んでください」
†
黒髪の少女は一人、事も無さげに戦場を見やっていた。
羊を追いたて
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