想い育てよ秋の蘭
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」
攻撃を続けながらも、二人が選んだのは言葉の刃。
優しい彼女を追い詰める為に、本心を零す。挑発と同じ効果を齎して、彼女の心を乱す為に。生き残る方策として選んだが、やるせなさから放った言葉でもあった。
兵士の刃を掻い潜り、矢を弾き、大槌をいなし……幼馴染だからこそ出来る完全な連携によって、苦しいながらも彼女達には言葉を零す余裕が出てきた。
グサリ、と斗詩の心に突き立つ。震えそうになりながら、斗詩は大槌をまた振るう。
飛び退いて避けた二人には矢が放たれ、転げる事でどうにか避けた。
“其処を叩き潰せばいいのに”
斗詩の頭に、彼女が囁いた気がした。当然、彼女ならばそれを選ぶであろう。
分かっているのに出来ない。何度かそういった隙は見えていた。無慈悲に殺すだけなら、出来そうな瞬間が多々あった……が、斗詩はその都度、動けなかった。
寒かった。動いて汗は出ているのに、体温が低く感じた。何よりも、心が冷たくてしかたなかった。
「……投降してください。してくれないなら……」
――殺します。
最後の言葉がどうしても出て来ない。
猪々子の為だ。麗羽の為だ。狂ってしまった彼女の為だ。悲劇で足掻いている少女の為だ。
だというのに、自分の心が抗って、苦しくて、哀しかった。
ああ、と息を付く。
これが誇りなんだろう、と。
考えながら、笑われるだろう、とも感じた。
『兵士だったら平気で殺す癖に、お前はなんで綺麗事なんざ考えてるのさ』
抜けてきた曹操軍の兵士を殺すのには、なんら心が痛まなかった。随分前に割り切った、兵士というモノはそういう扱いだったから。
だというのに、武将としての誇り持ちし彼女達を潰す事に躊躇いを感じている自分が居る。明に命の価値を説いた身であるのに、自分は敵を殺すのに躊躇いの線引きを持っていた。
その矛盾が、彼女を苦しめる。
同じ命なのに、何が違うのか……分からない。
耳を塞ぎたくなるようなこの場所を、久しく一つの意味で怖いと感じた。殺される事に恐怖を感じたのは何度もある。しかしそれは……
――人を殺す事が……怖い。
初めての賊討伐のように、恐ろしくて仕方なかった。
一寸の隙と見て、地に伏せていた凪が俊足で近づいた。
目を見開くよりも先に、長く戦場で戦った経験からか、斗詩は大槌を引き上げる。
大きな音が鳴った。金属を打つ鈍い音と共に、全身に振動が伝わり、ふわり、と脚が浮く。
気付いた時には後方に飛んでいた。衝撃を受けた自分の背中を受け止めてくれたのは……二人の兵士。
「ご無事ですか!?」
見上げれば顔が良く見えた。精悍な顔つきをした兵士だった。妻も子供もいるかもしれない。そう思うと、斗詩は泣きそうになった。
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