第五章
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第五章
「それでね。いいじゃない」
「いつもでなくていいって」
「だっていつも一緒にいなくちゃいけないって訳でもないんだろう?」
「えっ、けれど」
サリーはそう言われるとだ。困った顔での返答だった。
「マミーは」
「だから。学校じゃマミーと一緒じゃないじゃない」
「それはそうだけれど」
「じゃあそれでいいじゃない」
また言う彼だった。
「それでさ。学校と同じだって思えばね」
「学校と同じ」
「そう、同じだよ」
また言うのだった。その時と同じなのだという。そして言葉はそれで終わりではなかった。
「それにさ」
「それに?」
「本当に時々ね。マミーのことを忘れてみたら?」
「忘れるって」
「そう、忘れて楽しく遊ぼうよ」
楽天的で賑やかな彼らしい言葉だった。彼は実際にそう考えていたしそれを行動にも出していた。それでサリーの前にいるのである。
「たまにはね」
「たまにはって」
「その方が楽しくやれるよ。ハメを外すのもいいものだよ」
また言うのだった。
「それでね。やっていくのもね」
「そうなの」
「とにかく行こう、それで楽しくやろう」
「ええ」
サリーも小さくだが頷いた。そうしてだった。
二人でデートをする。サリーは最後まで携帯を出さなかった。
そして最後の別れの場所は駅前だった。そこでサリーはハイメにこう言ってきたのである。
「あの」
「あの?」
「今日、楽しかったわ」
小さな声での言葉だった。
「今日はね。嬉しかったわ」
「嬉しかったの」
「はじめてのデートだったけれど」
「ファーストデートだったんだ」
「ずっと憧れてもいたけれどね」
このことも言う。やはり小さな声ではあるがだ。背が高く姿勢のいい彼女だがそれでも今は背中を少し丸めさせている。それがハイメには何故か可愛く見えた。
「それでも」
「それでも?」
「楽しかったわ。有り難う」
「御礼なんていいよ」
今のサリーの言葉には軽く笑って返すハイメだった。
「そんなことはさ」
「そうなの」
「そうさ、いいって」
そのことをまた言うのだった。
「別にさ」
「そうなの。それでも」
サリーはまだ言う。声は相変わらず小さく少しずつ出されるものだった。その声でハイメに対して語っているのである。そうしているのである。
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