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その魂に祝福を
魔石の時代
第四章
覚悟と選択の行方3
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元の形に戻す。全てが終わってしまう前に。まだ間に合うはずだ。言い聞かせる様にして、扉を開ける。鍵はかかっていなかった。
(誰もいない?)
 豪華であるはずのその部屋は、その価値に反して殺風景だった。それこそが、何よりも仮初の居場所である事を示しているように思える。だが、人がいる痕跡が見いだせない訳ではない。その一つを取り上げる。
(プレシア・テスタロッサ。やはり間違いない……)
 ベッドサイドに置かれていた写真立。そこには、ごく普通の親子の姿があった。大魔導師とまで呼ばれた稀代の魔導師と、その娘。幸福な過去を――もう『存在しない』光景を映し出したそれに痛みすら覚えた。プレシア・テスタロッサを襲った悲劇に全くの共感を覚えない程に自分は非情ではないつもりだし、何でも割り切れる訳でもない。だが、
「それでも、やらなければならない」
 覚悟を決めて、もう一つの痕跡をたどる。それは、血痕だった。ただ、妙なのは少しばかり薄い事だ。いや、妙ではないか。一度水中に沈んだのだから。
(それだけが理由じゃないようだが……)
 窓から部屋を横断して続く血痕は、まずバスルームまで続いていた。慎重に扉を開けると、はっきりと血の匂いがした。血で濁った水がバスタブに溜まっている。塩を洗い流したのだろう。やはり、御神光はこの部屋に戻っている。それなら、おそらく――
(いったんリビングに戻ってから……この部屋に向かったはず)
 血痕の流れからすれば、他に考えられない。そして、ここから出た痕跡はない。相手も魔導師である以上絶対とは言えないが、それでもこの部屋の中にいる可能性は決して低くはあるまい。
「御神光。入るぞ」
 宣言というよりは、自分自身を鼓舞するような心境で扉を開く。そこにあったのは、やはり殺風景な部屋だった。というより、一切の家財道具がない。その代わり、四方に何か妙なガラクタが置かれている。そして、どうやらそれが室内を結界を維持しているようだった。おそらく、御神光は結界の中にいるのだろう。だが、
(何だ……? 何の抵抗もない?)
 まずはデバイスで。次に片手で触れる。だが、そのどちらも何の抵抗もなく『向こう側』に滑り込んでいく。最後に、覚悟を決めて一歩踏み込む。だが、その前にすべき事があった。何のための結界なのか。立ち入る前に、それをよく考えるべきだったのだ。
 中に踏み込んでから。たちまちのうちに後悔する事になる。
「何ッ!?」
 真っ先に見えたのは、奇妙な怪物だった。朽ちかけの甲冑を内側から風船のように膨らませたようなその怪物。それがくぐもった悲鳴と共に襲ってくる――より早く、
「ッ!?」
 漆黒の影が、頭部から股間まで唐竹割にして見せた。言うまでもない。御神光だ。
(いや、違う!)
 今目の前にいるのは、御神光を蝕む『魔物』――彼の肉
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