第十三章 聖国の世界扉
第七話 世界扉
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そう、きましたか」
アンリエッタは苦虫を噛み潰したような顔になり、
「……“虚無”、か」
士郎は、納得がいったように小さく頷いた。
「ええ。先程ご説明した通り、わたくしの“虚無”は移動に特化しているようですので」
「あると、言うのか―――異世界に渡る“虚無”が」
「今はありませんが、そうですね……それも直ぐに使えるようになると思いますよ……そう、例えば―――今、この時かも―――」
士郎の問いにヴィットーリオが手に持った“始祖の祈祷書”を開きながら応えた―――その時、
「―――しれませんね」
ヴィットーリオが開いたページから眩い光が溢れ出した。
突然現れた光を皆が手や瞼で遮る中、唯一人ヴィットーリオだけが敬虔な面持ちで受け止めていた。太陽や炎、魔法の光とも違う光に照らされたヴィットーリオは、その現実離れした美しさと合わさりまるで伝説に謳われる聖人のようであり、そのあまりの神々しさに打たれたかのようにジュリオはその場で膝をつき頭を垂れた。
伝説に語られる“虚無”の新たな魔法を会得する瞬間を前に、士郎たちはただ息を飲み立ち尽くす。
だが、その胸中に広がる思いは各自で違った。
ルイズは不安―――ヴィットーリオが言っていた事が真実であるならば、士郎が帰ってしまうかもしれないと―――。
アンリエッタは警戒―――前々からヴィットーリオが何かを企んでいるのは予感していたが、元の世界に帰るための手段を餌に、一体何を要求するつもりなのかと―――。
ティファニアは戸惑い―――目まぐるしく動く事態を把握出来ず、ただただ混乱するだけで、未だ自身の思いが定まってはいない―――。
そして士郎は―――複雑に絡み合った思い。
戸惑い、喜び、警戒等と様々な思いが次々にわき上がるそれを胸の内で押し殺しながら、噛み付かんばかりの強さでヴィットーリオを睨みつける。
様々な感情と思いが渦巻く中、ヴィットーリオは開いた“始祖の祈祷書”のページに浮かび上がるそれを読み上げた。
「中級の中の上―――“世界扉”」
―――ユル・イル・ナウシズ・ゲーボ・シル・マリ……。
開かれた“始祖の祈祷書”から溢れる光が執務室を照らす中、朗々と響く“詠唱”の声。
期待と、不安と、恐れが入り混じった空気が漂う中、ヴィットーリオの詠唱が―――
ハガス・エルオー・ペオース……。
―――とまった。
虚無魔法の威力は、詠唱の長さに比例する。そしてそれは、消費する魔力の量も同じ事が言えた。
詠唱が終わると同時に、開かれた“始祖の祈祷書”から漏れる光が収まり―――ヴィットーリオは懐から取り出した杖を振り下ろした。
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