第十三章 聖国の世界扉
第七話 世界扉
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わよ! いいの!? また高度六百メートルから何の装備もなしでフリーダイビングする羽目になってもッ!!?』
握り拳程の大きさにまで縮んだ“世界扉”に噛み付かんばかりに顔を寄せながら、女は理不尽過ぎる脅しとしか言いようのない言動を士郎に向ける。
『ちょっとッ! 聞いてんのッ! って言うか、アンタなんでそんなところにいるのよッ!? アンタちゃんと分かってんの、そこは―――ッ』
優雅の欠片もない狂った犬のようにギャンギャンと吠え立てる女の声と姿は、“世界扉”と共に消失する。
残ったのは静まり返った執務室の空気だけ。
誰も声を上げず、視線も定まらないまま。しかし、あちこち逡巡するように揺れていた視線は、時間と共にある方向へと移動していく。その先にいるのは、苦し気に眉を顰めた渋面を俯かせる士郎の姿。
皆の視線に晒された士郎は、俯けていた顔をヴィットーリオに向け―――告げた。
「―――先程の返事だが、俺は元の世界に戻る気はない」
何処か弱々しげな―――
「……死にたくないからな」
―――引きつった笑みを浮かべて。
―――ロマリアの街並みを地平から昇る朝日が遍く照らし出す中。窓から差し込む光が閉じた瞼を撫でる感触に目を覚ました士郎は、ゆっくりとした仕草で確認するように周囲を見渡した後、身体をベッドから起こした。
軽く頭を振り、眠気を払った士郎は、ベッドに接する壁に備えられた窓を開け放ち、朝特有の冷たく澄んだ風を部屋の中に招き入れた。冷たいシャワーを浴びるように、冷え切った風に全身を晒した士郎は、閉じていた目を静かに開き、青く晴れ渡った空を見上げ。
「―――……はぁ」
重いため息を吐いた。
昨日―――教皇の執務室で行われた“虚無”についての話し合いは、教皇が目覚めた新たな“虚無”―――“世界扉”の異変により終了となった。
正確には、異変により生じた誰しも想像もしなかった事態が生じたことから、誰しも何が起きたか理解も説明も出来ず、そのまま混乱から自然に解散となったと言った方が良いか。ともかく、予想外の事態により話し合いは中途半端な形で終了となり、ルイズたちを呼び出した教皇の真意を図る事は出来ないでいた。誰しも何が起きたか理解できないまま執務室を出た後は、士郎の知る限りでは皆同じような行動を取っていた。
部屋に閉じこもったのだ。
あの時、一体何が起きたかを自分なりに理解するためか、執務室を出たルイズたちは、各自に用意された自分の部屋に閉じこもってしまった。それは教皇も同じであり、士郎たちが出た後、どうやらジュリオと共に執務室に篭もりっきりであるようだった。
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