暁 〜小説投稿サイト〜
Magic flare(マジック・フレア)
第2話 泣ク看守
[1/10]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 ―1―

 七日、出動のない日が続いた。八日目の休日、強羅木ハジメの自宅を懐かしい客人が訪ねてきた。ACJ道東支社勤務、学生時代からの馴染みの向坂(むこうざか)ゴエイという男である。強羅木は宅配のランチメニューで客人をもてなした。
「クグチ君はどうしてるかな」
 強羅木は笑みを浮かべる向坂の顔を眺めた。空虚な笑顔だと思う。お互い、四十を過ぎてこれ以上昇格できそうな気がしない。こいつは俺をこう思っているだろう、また目つきばかり鋭くなったと、と考えて胃の腑が重くなった。被害妄想だが。
「どうもこうもあるか。何も変わりゃしない」
「他の仲間とうまくやれてないのかい」
「衝突はしないが摩擦はある。本人なりにうまくやってるつもりなんだろうがな。いかんせん、あれは天性のひねくれ者だ」
「天性の? そうかなあ。あの明日宮君の息子さんじゃないか」
「じゃあ俺の育て方の問題か?」
 パスタソースにまみれたフォークでいたずらにカプレーゼをつつきながら、強羅木は意図せず攻撃的な口調になったが、思い直して言い足した。
「いいや。俺の問題だ。確かに」
「済まなかった、そんなつもりじゃ……」
「道東の生活はどうだ」
「ここと一緒だよ。一年でいろんな所に行ってみたけど、どこの様子も変わらない。石垣支社、天草支社、鎌倉支社、あとどこだっけ。まあどこも同じだ。行っても行かなくても同じだった」
「鎌倉か。昔、明日宮とお前と三人で卒業旅行に行ったな」
「焼けてしまったよ」
「復興した」
「したね。ACJのフォーマット通りに。良くも悪くも見る影もない」
 強羅木はワインのボトルを掴んだ。向坂が掌を見せて、その動きを制した。二人はそのまま静止した。
 強羅木は守護天使を有しているが、最後に呼び出しを行ったのがいつだか思い出せない。向坂がどうかは知らない。二人ともレンズは目立たない無彩色のものを使用している。が、依然として相手の姿に重なって幸福指数と簡易プロフィール、勤務会社と役職が見えるので、守護天使を手放してはいないとわかる。
 星10個中7個 幸福指数A。
 同じ表示が俺にも表れ、向坂に見えているはずだと、強羅木は頭の中の冷たい部分で思った。俺はさして不幸でも幸福でもない。ACJの正社員であるというだけで、幸福指数ははね上がる。それだけのことだ。
「知ってると思うけど、僕らの特殊警備の職分はもうじきACJの手を離れる」
「……まだ可決されてはいないだろう」
「よほどのことがない限りまず通るよ」
 ワインボトルから手を離した。
 健全な市民生活のための電磁体利用と保護に関する規制法案。通称『電磁体保護法案』。居住区に住んでいるなら十代の少年少女でも知っている。
「今のACJのやり方は滅茶苦茶だ。居住区での暮らしに対して絶大な支配力を持つとは
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ