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Magic flare(マジック・フレア)
第2話 泣ク看守
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光って見えた。
 道東の居住区だ。
 透きとおるドームに守られて、燦然と白一色の輝きを放っている。その外には明かりのない家々がびっしり群れて、息を殺している。貧しい人々が、磁気嵐に耐える電子機器を持つことも開発することもできず、ドームから垂れ流される汚水に耐え、排気に耐え、ごみの中から使えそうなもの食べられそうなものを拾い、電子の幽霊たちと重なりあって生きている。
 遠くで巨大な炎の花が開いている。あの火災でどれだけ人が死のうと、居住区で報じられることはない。居住区の市民たちは天から降る七色の羽根の幻覚、魅力的な動物が行き交うサバンナの幻覚、美しい水が流れる滝の幻覚の中で生き、自分を決して否定しない天使たちの声を聴き、喋り、いつかそれが黒い水になってドームを満たしても決して気付くことはなく、出ていくこともできぬまま、溺れて死ぬ。
 さながら電子の幽霊たちは看守だ。居住区の中の家族に会いたいと涙を流し、震える指で鍵穴を探す。幸せの牢獄。
 本当はこんな所に来たくなかったと、クグチはついに本心を認めないわけにいかなくなった。壁に背を預け、両手で顔を覆う。
 柔らかなチャイムと共に、着陸を告げるアナウンスが始まった。

 その二人は空港のロビーで待っていた。同類はわかる。男女一人ずつでの迎えだった。クグチが彼らを見つけると、彼らもクグチを見つけた。
 夜に塗られたガラスの壁を背に、並んで歩いてくる。どちらも背が高くて逞しい。スーツケースに手をかけたまま、クグチは一礼した。
「道東支社特殊警備センターの岸本です」
 四十手前くらいの、浅黒い肌の男だ。細い目は不機嫌な光をともし、品定めするような目でクグチを見つめてくる。この男が上司になるのかと、クグチは憂鬱になった。
 隣の女がハンドバッグを肩にかけ直した。
「バンジョウです。万乗槇女(まきめ)。よろしく」
 こちらは三十前後の、明るく染めた髪が目を引く、少し派手な装いの女だった。クグチもまた品定めするような目を返した。
「明日宮九々智(クグチ)です。よろしくお願いします」
 結果、気付いた。二人の目もレンズの薄い膜に覆われていない。
 Sランク市民というふうでもない。
 ならば彼らにも守護天使がないのだ。
 梅雨が来る。



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